第17章 薄紅葵のティータイム
「ちゃんっ。」
『はいっ。ご、ごめんなさっ。』
片方の手で掴まれていた私の手に、もうひとつの手がまた重ねられる。
どうしたらいいのだろう、怒られてしまうたろうか。
そう思ってぎゅっと目を瞑って俯くと、視界が真っ黒に染まった。
けれど、及川さんからかけられた言葉は私の予想とは全然違うものだった。
「ちゃん、何で烏野に行っちゃったの!···青城に来てくれてたらよかったのにっ。」
『え?ぁ···え。あの···怒らないん···ですか?』
「怒る?何で。ちゃんは俺が聞いたことに素直に答えてくれただけじゃん。てゆーか、ちゃんは白鳥沢知ってるの?ウシワカちゃんのことも?」
『ぁ···はい。去年の春高で見て。北のウシワカって言われていたので、見てみたくて···。』
「東京まで行ったの!?」
『あ、いえ。私は去年度までは東京に住んでたんです。だから、幼なじみと一緒に見に行って。』
「ふーん。で、どうだった?そのウシワカちゃんは。」
『凄い、選手でした。スパイクの威力が凄くて。その1本のスパイクでどんな流れも持って行ってしまう、みたいな感じで。白鳥沢自体も、牛島さんの力を、というよりも、個々の力をそれぞれ最大限に発揮させて···足し算で構成されている、みたいなチームでした。』
「そっかぁ。···ちゃん、やっぱり凄いね。ちゃーんといい目を持ってる。」
会話の間にいつの間にか離されていた及川さんの手のひらが、今度は私の頭をポンポンと撫でた。
「あーあ、引っ越して来たなら尚更烏野じゃなくて、青城に入ればよかったのに。ちゃんはうちに欲しかったなー。」
『えっ?あ、ありがとう、ございます?』
「まぁ、ウシワカちゃんはどーでもいいけど!今回のインターハイ予選は及川さんのいる青葉城西が絶対に勝ってうちがインターハイ行くから!」
『そ、それは!···烏野も譲れないですっ。』
「ははっ、負けないよー!」
カラカラと笑う及川さんの顔を見て、一気に肩の力が抜ける。
余程集中して話をしていたみたいだった。
まだ注文を通したばかりだと思っていたけれど、すっかり時間がたっていたのを店員さんが飲み物を持ってきてくれたのを見て知ったのだった。