第17章 薄紅葵のティータイム
『青葉城西のスパイカーの皆さんは、上がったトスに合わせてスパイクを打っていました。セッター主導です。····岩泉さんは、もっと高い打点でスパイクを打てたと思うんです。小さなことですが、その小さなことが、試合の結果を左右すると思います。青葉城西のチームにとって、攻撃の要である岩泉さんに綻びが出ることは致命的だと思いました。』
トーナメントで上に行けば行く程、セッターの上げたトスの位置というのは重要になってくるものだ。
少し低めに上がったりだとか、タイミングが早かったりだとか。たったそれだけでブロッカーに容易く止められてしまう要因になったりするのだから。
バレーボールは6人で強い方が強い。
矢巾さんに限らない。例えば精神面でだとか、少しの綻びは大きな波となってチームに襲いかかって来る。
だからこそ、この目の前にいる及川さんという存在は青葉城西のチームにとって無くてはならない大きな存在なのでは無いだろうかと思うのだ。及川さんが入ることによってきっと、全てのメンバーが最上級に活躍出来るチームになるのではないだろうか。
及川さんのプレイを見たのは、練習試合のあれきりだ。
けれど、その予感は自分の中で確信めいたものになっているような気がした。それは、技術的な面でも、精神的な面でも。
『セッターと岩泉さんにボールが集まって、もしも攻撃が上手く回らなくなった時に、それでも向かって行けるような強さが他のメンバーに無ければ、白鳥沢に限らず、烏野にだってまた負けると思います。』
私が一通り話終えると、じっと話を聞いていた及川さんが下を向いて大きく息を吐き出した。
はぁーと長く吐き出された息と、張り詰めた空気に、夢中になって話してしまった私の顔から血の気がサッと引いていくのが分かった。夢中になりすぎて一気に喋り過ぎてしまったと思う。私は慌てて及川さんに声を掛けた。
『ご、ごめんなさいっ。わたしっ、夢中になって失礼なことばっかりっ。ごめんなさいっ。』
下を向いている及川さんに向かって、咄嗟に手が伸びる。
その手は、及川さんに届く大分手前でそっと彼の大きな手によってふわりと包まれた。
大きなその手の感触に驚いて及川さんを見つめると、ふとその大きな茶色い瞳が弾かれたように私の瞳を捉えた。