第17章 薄紅葵のティータイム
『バランスのとれた良いチームではあったと思います。特に3年生の方たちは、他の学校に行けばエースだと言えるくらいの実力を持っていたと思います。』
松川さんや、花巻さんのレシーブはとても安定したものだった。
岩泉さんも、パワー、高さ共に申し分ない実力だと思う。
けれど、と思う。
『でも、もしも及川さんのいないあのチームでインターハイ予選に出ることがあったなら、牛島若利さん率いる白鳥沢学園には遠く及ばないと思います。』
去年の春高での試合を思い出す。
クロちゃんや研磨の先輩達率いる音駒高校は予選敗退と言うことで春高には出場出来なかったけれど、梟谷高校の応援と、そして他校の視察の為に春高の会場を訪れていた。
そこで見たことがある、白鳥沢学園の試合は今でも記憶に残っている程には鮮烈だった。
『青葉城西のセッターの方は確かに優秀でした。テクニックもスピードもあったと思います。でも、上に行くにはまだ足りないと感じました。もし烏野がまた同じあの城西のチームと試合をする機会があったなら、私はセッターと岩泉さんを中心に攻めるように監督に進言します。』
例えば、烏野セッターの影山くんは、圧倒的な才能で選手皆の1番打ちやすい場所へと針の穴を通すようなコントロールでボールを持っていく。そして強気な姿勢からくる攻めのゲームメイク。多少レシーブが乱れたとしても関係なくスパイカーの最高打点へとボールを運ぶ事が出来る。
音駒の研磨は、広い視野と観察眼で相手の弱点や特徴を瞬時に見分けて的確にそこをつく作戦の立案。他選手の圧倒的なレシーブ力から来るAパスによって出来る最小モーションで相手ブロッカーに誰が打つか読ませないトスを上げる。
梟谷の京治くんは、絶対的なエースであるぼっくんを最大限に活かすセットアップ。鋭い洞察眼で的確に試合の流れを把握して、場面ごとに最適な攻撃パターンを導き出して相手に対応する。多少レシーブが乱れたとしても攻撃の手は止めない、強気なセッターだ。
対して、矢巾さんはどうだっただろうか。
『私はスパイクの主導権はセッターが握るものでは無いと思うんです。スパイカーの望むトスを的確に上げられるセッターが良いセッターだと思うんです。』
私は、彼がまだその域には達していないと思ったのだ。