第17章 薄紅葵のティータイム
ハーブティーは大好きだとそう伝えると、及川さんは近くの店員さんに早速注文を入れてくれた。
どんなハーブティーが来るんだろう。とっても楽しみ。
こんなに楽しませて貰ってもいいのだろうか?と及川さんをチラッと見てみると、鞄から先程見た白いDVDを取り出した。
「忘れないうちに渡しておくね。」
『あ、ありがとうございますっ。』
すっと差し出された目的のDVD。
去年の日付けと、春高予選と書かれた文字。
これで、少しは他校の情報が手に入る。
しかし、本当に貸してもらっても良いんだろうか。代価に私が楽しませて貰っているというその事実が不安を掻き立てる。
『あの、本当にお借りしてもいいんですよね?』
「んー?いいよー!まぁ、試合のDVDなんて、探せば結構持ってる人もいるもんだしねー。それに、分析されても俺達が弱くなる訳じゃないし。」
そう言って笑った及川さんの顔は、自分の強さを確信しているような、そしてチームを信頼している絶対的な自信のようなものを感じとれて、私の背中をヒヤリとした空気がながれた。
ふわりと笑うのに、どこからから感じるその威圧感のようなものに、私は改めてこの人はすごい人なんだと思い知らされた。
「ところでちゃん、DVD見て分析するのってちゃんがするの?」
『あ、はい。私が見て、監督に渡そうかなって。』
「へぇー。得意なんだ、分析とかするの。」
『得意かどうかは、わからないんです。···幼なじみが、プレイを見てこの選手はこういう人でこういう動きをするだろうっていう予測が凄く鋭くて。私は、その真似事をしているだけで。』
「そうなんだ。···ちなみに青城はどうだった?」
『青城···ですか?···でも、及川さんのいなかったこの前のチームは、及川さんが入ったチームとは全くの別物、ですよね?』
「確かにねぇ。でもさ、折角だし参考までに聞かせてよ!」
『えっと、じゃあ···。』
及川さんに粘られて、この前の青葉城西との練習試合を思い出す。
県内ベスト4と言われている青葉城西高校。でも、すぐに感じた違和感。バランスのとれたいいチームだったけれど、なんとなく全力を出し切れていないようなモヤモヤとした相手校の試合運び。
それはきっとほんの些細なようで大きな違いだったんだろう。