第17章 薄紅葵のティータイム
side 及川 徹
なんて
「ふふっ…。ははっ。」
なんて、愚かなんだろうと思う。
真剣に見つめてくるその揺るぎない瞳。
わかるよ、勝つためには何だってするよね。
俺だってそうだ。勝つためには何だってするし、してきた。
でもさ、入ってきたばっかりの1年生の、それもマネージャーが、彼らの為にここまでするのか。
単身で、敵校の俺のところまでやってきてこうして無謀なお願いをする。
何でそんなことまでするの?
自分がプレイする訳でもない。勝てる保証も無ければ勝ったからって何か彼女に利がある訳でもない。
例えば情報を持ち帰ったとして、それに対して見返りだってない。
せいぜいありがとうと、そう言われるだけだ。
その無償の献身は、なんて愚かで
『え?ぁ、あの、及川さん?』
「ふふっ。あーごめんごめん。」
なんて愛しいんだろうと思う。
勝つ為だと、ひたむきに向けるその思いが。
俺に向けるその視線が。
マネージャーなんて、ただ補助をしてくれればそれだけでもいいのに。
それでも、たた貪欲に彼らの役に立ちたいとそう願う彼女の思いがとても眩しく感じる。
思わず目の前にあるちゃんの頭を撫でる。
日に当たって暖かいふわふわとした髪の感触が手に心地いい。
「そっかー。ははっ…ちゃんはそういう子かー。」
ちゃんの首が、不思議そうにコテンと傾ぐ。
不安げに下がった眉に、また愛しさが募る。
普通は、ここまでする彼女を馬鹿じゃないの?って思うのだろうか。
高校の部活という曖昧で、形に残るか残らないか不安定な環境で。それでもそれに全力になるこの姿は、周りから見れば滑稽に映るのだろうか。
だからこそ、同じようにひた向きに前を向く彼女をこんなに愛しく感じるのだろうか。
『お、及川さん?』
こちらを見上げている彼女の頭をもう1度撫でる。
あぁ、ドロドロに甘やかしたくなる。
彼女のことをもっと知りたい。
鞄をあさって1枚の白いDVDを取り出す。
「いいよ、このDVDちゃんに貸してあげる。」
『本当ですか!?』
「うん。…ただし条件があるんだよね。」
『条件…ですか?私に出来ることなら何でもっ。』
俺の心の中の悪魔がニヤリとほほ笑んだ。