第17章 薄紅葵のティータイム
『わぷっ。…ご、ごめんなさい。』
「あぁぁ、ごめんちゃんっ、鼻大丈夫だった?」
及川さんがかがんで私の顔を覗き込んできた。
余計なことを考えてぶつかってしまったことが恥ずかしくて、顔を見られないように俯きながら大丈夫ですと慌てて返事を返した。
「良かったー。…さて、取りあえずここまで来れば大丈夫かな。」
及川さんの言葉に改めて周りを見渡してみる。
人通りの割と少ない、中庭の様なところだ。部活に向かうのだろう生徒たちが少し遠くを通り過ぎていくのが見える。
しかし、人目は少ないとは言え、他行の自分が学校の中にまで入ってきてしまって良かったのだろうかと首を傾げる。
他校の生徒が入ってきてしまっているのがばれたら、一緒にいる及川さんに迷惑がかかってしまうのではないだろうか。
『私、こんなところまで来てしまって大丈夫ですか?…及川さん、怒られたりしませんか?』
そう素直に問いかけてみれば、及川さんは「んー」と考える素振を見せた後あっ!!と声をあげて、鞄をゴソゴソと探ったあと見覚えのある白にライトグリーンのジャージを取り出した。城西バレー部のジャージだ。
そのジャージをふわりと抱き込むようにしてそっと私の肩に掛けるとにっこりと笑ってみせた。
「ほら、これを上から来てたら他校の生徒だってばれないよ。」
及川さんはそう言ったままこちらを見つめるので、これ以上迷惑を掛けるわけにもいかないし、意を決してそのジャージの袖に手を通してみる。及川さんがいつも着ているものなだけあってとっても大きい。
全然袖から手が出てこない。もたついていると、ジャージからふわりと及川さんの香りがして急に気恥ずかしくなる。
その恥ずかしさを隠すように急いで何とか両手を袖から出すと、及川さんが前のジッパーをジジッという音を立てながらしめた。
私の制服は完全に及川さんのジャージで隠れてしまった。
確かにこれなら烏野の生徒だとは思われない。
『及川さん、ありがとうございます。』
急に訪ねてきた私に、こんな配慮までしてくれるなんて。
及川さんは本当に優しい人だ。
頬が緩んだまま及川さんを見上げてお礼を言うと、及川さんは一歩後ずさった。