第17章 薄紅葵のティータイム
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「っちゃん!」
『ぁ…及川さん。』
いくつか出来てしまった人だかりの間を、こちらに向かって走ってくる及川さんの姿が見える。
校門に到着して、親切に声を掛けてくれた男子生徒に及川徹さんを探していると声を掛けてから数分後。
意図せず、校門には複数の人だかりが出来てしまっていた。少し遠巻きにしてこちらに視線を送られているのがわかって落ち着かなくなる。
けれど、よく考えてみれば他校の制服を着た他校の生徒がこんなところにいれば注目を集めるのは当然で。しかも今は下校時刻。
人が集まってしまうのは当然と言えば当然だった。
恥ずかしくなって、自然と顔が俯く。
どうしよう、どうしよう、と持っていた鞄の紐をぎゅっと握る。
心なしか顔も暑い。
ずっとここで大人しくしていても何も変わらない。意を決してもう一度及川徹さんがどこにいるか聞いてみようか。そう思った時だった。
焦ったようにこちらを見て走り寄ってきた及川さん。
もちろん知らない人ばかりのこの学校で、やはり見覚えのある、というより今日の目的の人物である及川さんの顔を見てどうしようもなく安堵している自分に気づく。
顔が緩むのを押さえられず、その緩んだ顔のまま及川さんを見つめ返す。
「あぁもう!本当にかわいいな!…っじゃなくて!なんでちゃんがこんなところにいるの!?」
『え、えっと、あの。』
及川さんに無事に出会えた安心感で、とっさに言葉が出てこない。
もごもごと言い淀んでいる間に、及川さんに手を握られた。
「取りあえず、ここじゃ人目に付きすぎるから、ちょっとこっちおいで。」
『あ、あの、すみません。』
及川さんは私の手を握ったまま大股で歩き出した。
背の高い及川さんの歩幅に合わせると、自然と私は小走りになる。
ざわざわとざわめく人だかりの波をいくつか抜けて、前を歩く及川さんに付いていくと、人通りのすくない中庭のようなところまできた。
新緑の季節というだけあって緑が多い。
なんだか小さな鳥まで飛んでいる。可愛いな、なんて全然関係ないことを考えながら付いていくと急に及川さんの足が止まって私は及川さんの背中にトンッとぶつかった。