第17章 薄紅葵のティータイム
誰とはなしに問いかけてみると、それを聞いていたクラスのヤツがこちらに小走りでやってくる。
こっちはイライラしてるってのに、あっちは何だか興奮気味で、こちらの怒りなんてちっとも意に介してない。
「おい、及川!!校門にめちゃくちゃ可愛い女の子がいるらしいぜ!!」
「ふーん。」
「え?···興味ねーの?」
「ないね。」
「は?まじで?お前どうしたんだ?熱でもあんのか?」
額に伸びてきたクラスメイトの手を咄嗟に避ける。
ヤローに触られても嬉しくないし。
校門に可愛い子、ねー。全然興味が湧かない。
モヤモヤした気持ちを抱えたまま、騒ぐクラスの主に男共を無視して引き出しに入った教科書を鞄に詰めて帰り支度を済ませる。
今日は家に帰ってインターハイ予選の為に試合のDVDでも見ながら分析でもしよう。丁度、DVD焼き増ししたのを持って帰る所だし。
鞄を肩に掛けて机を離れようと足を向ける。
そのまま教室を出てやろうと、扉の方を向いた時だった。
バタンっという音を立てて扉が開いた。
「おい及川!!···校門にいる女子が、お前の名前言ってるらしいぞ!」
「·····は···?」
「烏野の制服着てるらしいんだけど、お前烏野に知り合いなんていんのか?」
急にフル回転しだす頭。
校門にいるのは可愛い女の子で、しかも烏野の制服着てるの?
でも、まさかそんな、彼女な訳ない。
だって彼女と会ったのは練習試合の時の1回きりだし、知り合いだなんて呼べる程会話もしてない。
烏野からわざわざここまで俺に会いに来る理由だって思い浮かばない。
色々と否定する要素を出してみるけれど、でももし校門にいるのが本当に思い描いている彼女なら?
思い出すのは、彼女との出会いの場面だ。
男に声を掛けられて、手を掴まれて怯えていた彼女。
もし本当に彼女なら、今も同じ状況で怯えてるかも。
「っ!!」
弾かれたように教室を出る。
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえるけど、知らない振りをして校門まで走る。
こんなに校門まで遠く感じたのは初めてだ。
近づくにつれてちらほらと人集りが増えてくる。騒ぎの中心に見えた小さなその姿。
走った時の動悸とは違う心臓の痛みを感じながら、焦がれていたその彼女に走り寄った。
あぁ、やっぱり彼女だけはキラキラして見える。