第17章 薄紅葵のティータイム
side 及川 透
聞き慣れた鐘の音が今日の授業を全て終えたことを告げている。
窓から空を見上げれば、雲なんてひとつも無いないめちゃくちゃいい天気。尚且つ今日は月曜日ということもあって部活も休みだ。
鳥だって優雅に空を飛ぶこんな日は、気になる女の子でも誘って遊びに行くにはもってこいの、まさしくデート日和。
いつもはそんな風にルンルン気分になる筈なのに、あの日からどうしてもそんな気分になれない。
「はぁー。」
烏野高校との練習試合があったあの日。
正直、烏野は面白いチームではあったけど、俺たちのチームが公式戦で負ける程のチームだとは思えなかった。
まぁ、とは言え油断なんてしないし全力で潰しに行くけど。なんてったって、烏野には憎き飛雄ちゃんがいるしね。
それよりも気になったのは、マネージャーとして同行していた彼女、ちゃん。
思い出というものは美化しがちだというけれど、あれって本当なのかな。
何度も、というか擦り切れる程思い返した彼女の姿は確かにドラマのワンシーンみたにキラキラ光って見えた。
逆に、今まで可愛いなと思っていた女の子達が皆同じ顔のへのへのもへじに見える。
フワフワとした笑顔でこちらを見上げていたちゃん。
どんな顔をしていても、本当に可愛かった。振り返った時にフワッと香った甘い匂い。
マネージャーとしても有能だし、勘の良さもありそう。
思い出すだけで心臓が煩くなる。
次に会えるのはインターハイ予選の会場か。
あのピリピリとした空気の中で、しかも敵校で、尚且つ主将である俺にまた笑いかけてくれるなんて、豆粒ほども期待出来ないんだろうな。
「はぁー。」
何度目か分からないため息をまたひとつ。
正直重症だと思う。たったあれだけの出会いでこんなにも自分の心が乱されるなんて。今までになかった経験に戸惑う。
こんなに俺が思い悩むなんて。
また出そうになったため息を今度は飲み込んだ。
「あのさぁ!及川さんちょっと今センチメンタルなの!静かに悩んだりしたいの!なのに、何でこのクラスこんなに煩い訳!?」
と、机についていた肘を戻しながらあまりにも煩いクラスのヤツらに問いかける。
授業が終わって嬉しいのか何なのか知らないけど、五月蝿すぎじゃない?