第17章 薄紅葵のティータイム
見慣れない道を歩いて、見慣れない駅で電車に乗り、また歩いて目的地に向かう。
今日の目的地は、青葉城西高校。というよりも、青葉城西高校に通っている及川徹さんだ。
以前青葉城西高校に訪れた時は、勿論バスで、それ以降練習試合もなければ他所の学校に行く機会などある訳がなくて。
踏み慣れない土地をこうして1人で歩いていることは正直不安がとても大きいけれど、それでも皆の役に立ちたいと思えば不思議と足はどんどんと前に進む。
心地よい風が髪をふわりと撫でていくのを感じながら、早足で向かう。東京とは違う、喧騒の少ないこの街。
烏野高校のある場所よりも少し都会のような気もするけれど、それでも東京よりは静かで良いなと思う。
こちらに来て、烏野の皆に出会えた事も良い事だったと自信を持って言えるけれど、こうしてのどかな街の風景も、時間がゆっくり流れているような、そんな風に思わせてくれるこの喧騒の少なさも、東京の騒がしさが苦手だった私にとってはとても良いなと思うことの1つだと思う。
ところで、なぜこうして月曜日に及川徹さんを訪ねることにしたのかというと、それは試合のDVDを厚かましくも貸して貰えないだろうかとお願いする為だ。
青葉城西の敵校である自分がお願いしに行くのだから、断られるだろうと、そう思ってはいるのだけれど、それでも藁にも縋る思いというのか。頼れる人も他に思い付かず、お願いするだけしてみようと行動を起こしてみたのだ。
月曜日である理由は、月刊バリボーの及川徹さんのインタビュー記事を見直した時に、青葉城西のバレー部は毎週月曜日は部活が休みだと目にした為だ。
知り合いという知り合いなんて宮城県にはいないし、少しお話した程度だというのに私は及川徹さんを頼ってみようと考えついてしまったのだ。
もしかしたら怒られてしまうかもしれないな、と思いながらようやく見えてきた大きな校舎を見てふぅ、と息をつく。
早く学校を出てきた甲斐もあって、丁度授業を終えた生徒たちがチラホラと校舎を出ていくのが見える。
及川さんが帰ってしまってはここまで来た意味が無い。
緊張で強ばる体に気づかない振りをして、私は足早に校門へと急いだ。