第17章 薄紅葵のティータイム
私の熱が下がって、学校に登校しだしてから数日後。
すっかり体調も元に戻り、いつも通りを取り戻していた。
そしてそんな私はバレーボールの指導に訪れていた鵜飼監督の目の前に立っている。それは、あることを尋ねる為だった。
私を見下ろす鵜飼監督の瞳は、少し怖そうな見た目に反してとても柔らかだ。
『鵜飼監督、試合までに他校の調査をしたくて。月曜日に少しお休みを頂きたいんですけど。』
「あぁ、それは全然構わねぇが。何か考えがあるのか?」
『はい。…実は、先輩たちに聞いてみたんですけど、直近の試合のビデオテープが無くて。それを手に入れるのに、少し訪ねたいところがあるんです。』
「そうか。確かに他校の調査は大事だな。今まではプレイに集中するので手一杯。ビデオを撮る手も足りなかったってとこか。」
『東京の学校はある程度わかるんですけど、宮城県の学校は全然わからなくて。少しでも今の状況とか、見ておきたくて。せめて、要注意校だけでも知っておきたいなって。』
「それは正直、すっげぇ助かるよ。こっちも店との両立であまりゆっくり相手校の調査もしてやれねぇし。頼むよ。」
鵜飼監督はニコリとほほ笑んで許してくれた。
これで、本格的に動けそうだ。
もうすぐインターハイ予選のトーナメント表も届く。出来ればそれに合わせて要注意校の資料も作っておきたい。
せめて、宮城県内のどの高校が強くて、どんなプレイスタイルの選手がいるのかだけでも把握したいからだ。
「それにしても…。が休むと、またコイツらがやかましくなるな。」
『へ?』
「が熱で休んだ日、コイツら大騒ぎだったんだよ。んで、大騒ぎかと思えば練習始まったとたんにすげぇ静かになっちまうし。…まぁ、コイツらにとっての存在は、結構大きいってことじゃねぇか?」
『そ、れは。』
鵜飼監督の言葉に、ふわっと胸が暖かくなる。
こんな私でも、少しは役に立てているのだろうか。
『何だか、嬉しいです·····。』
「そうか。良かったな。」
『はい。』
ニカッと効果音のつきそうな顔で笑う鵜飼監督に、また胸が暖かくなって、キュッと胸元のTシャツを握る。
何だか今なら何でも出来そうだ。
こうして私は来たる月曜日の放課後、とある学校へと急いで足を向けたのだった。