第16章 夕暮れの微熱
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重い頭が、どんどんと覚醒していく感じ。
ふと頭に感じる暖かい手の感触に、なんだかすごく安心して。
全然回らない頭で、考えてみる。
頭を撫でているのは、だぁれ?お母さん?
『…ん。…おかーさん?』
重い瞼をゆっくり開ける。
明るい光は入ってこない。今は夕方?それとももう夜?
なんだかお腹、すいちゃったな。
そんなことを考えながら、ベッドに肘をついて体を持ち上げる。
すると、背中をもって支えてくれる大きな手。
何だかいつもの感じと違う気がして、ふと横に視線を移してみる。
するとそこにいたのは、お母さんなんかじゃなかった。
「僕はキミのお母さんじゃないんだケド。」
『…え…?』
色素の薄い、私とよく似た色のフワフワの髪。
黒縁の眼鏡。目の前にいるのは、全然自分のお母さんなんかじゃない。
『っけい?…っなんでっ?』
目の前にいたのは、蛍だった。
頭の中に、なんでなんでと疑問符ばかりが浮かぶ。
髪もボサボサでパジャマ姿で。こんな姿、見られるなんて本当に恥ずかしい。
咄嗟に、自分にかかっている布団を頭まで持ってきてすっぽりと顔を隠す。もう今更無駄だとわかってはいるけれど、これが今自分が出来る最大の自衛策だった。
研磨とか、クロちゃんは一緒に寝ることも度々あったし私が熱を出す度にお見舞いに来てくれていたからこんな姿を見せることもあったけれど。
それ以外の人にこんな姿を見られてしまうなんて。
顔に熱が集まるのがわかる。
恥ずかしくて、蛍の顔が見れないよ。
「熱、下がってよかった。思ったより元気そうで安心したよ。」
『ねつ。』
「昨日、合宿帰りに倒れたの覚えてないの?」
そういえば、私はなんで昨日の合宿帰りからの記憶が無いの。
バスに乗って、降りて、歩いていて。
何だか体が熱くて熱くて、足も重くて、頭がフラフラして。
そうだ、私、蛍に迷惑掛けたくなくて頑張って帰ろうとしたのに。
気づいたらこうして今、ベッドで寝ている。結局あの後、倒れでもしたんだ。
『わっ、私、蛍に迷惑を。』
熱かった顔の温度が急激に下がる。
ただでさえ、いつも心配かけて、一緒に帰ってくれたりして迷惑をかけているというのに、またしても迷惑をかけてしまった。
『ごめん、ごめんね、蛍。』