第16章 夕暮れの微熱
『…け…い』
「っ!?」
不意にの口から紡がれた僕の名前。
起きたのかと、握っていた指をとっさに離した。
の顔を見てみるとまだ閉じられた瞼。
「…っちょっと。…うそデショ。」
本当、キミは僕のことどうしたいの。
そんな、寝言で僕の名前なんか呼んでさ。
ドキドキと早鐘を打つ心臓が痛くて思わず胸元を握る。
僕自身、この気持ちに戸惑っているんだ。出会ってまだ1か月。そんなにこんな、大切だって、独占したいだなんてこんな初めての気持ちを抱いていることにも驚いているのに、まだこれ以上があるの。
の顔にかかったやわらかい髪をそっとどける。
入学式の時より、すっかり長くなった前髪。
あの時は、こんな気持ちになるなんて思ってなかった。もっときっと軽い気持ちだった。
ただ髪に触れただけの指先に熱が灯る。
もうしか目に入らない。
もっと触れたい。そんな気持ちを押し殺すように自分の顔へと手を当てる。これ以上彼女の寝顔を見ていたら、もっと溢れてしまいそうだった。
「ねぇ、好きだよ。…どうしようもないくらい。」
なんだよ、これ。
息ができない。まるで溺れてるみたいだ。
ギュッと目を瞑って、小さな声で口からこぼれ出たのは、僕にしては珍しい素直な気持ち。
「。」
名前を呼ぶだけで、こんなに胸が苦しくなる。
どうしたらいい?
どうしたらキミは僕のものになるの。
例えば、この気持ちを今に告げたとして、僕のものになるなんて思わない。
じゃあどうしたらいいの。どうしたらあの幼馴染の2人みたいに近づけるの。
どんどんと深みにはまりそうな思考に気付いて、大きく息を吐き出す。
深呼吸を何度か繰り返すと、ようやく気持ちが落ち着いたようだった。自分の髪を撫でる風を感じて、窓が少し開いていたのか、なんて余計な事まで考えて。
もう1度に目を移す。
聞こえる穏やかな寝息、ほんのり桃色に染まった頬。
枕にフワッと散らばった色素の薄いフワフワの髪。
もう全てが愛おしかった。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
一度伸ばして、ためらったその手をやっぱり伸ばして。
僕は彼女の頭をそっと撫でた。