第16章 夕暮れの微熱
昨日は倒れたに動転していて何も感じなかったけれど、
そういえば、女子の部屋に入るのは初めてだったと、またの部屋を訪れてから思う。
インターホンを鳴らしてからすぐ、撫子さんから返事があって、是非見舞ってほしいとすぐに家にあげてもらえた。親に渡すプリントを直接撫子さんに渡して、昨日も向かったの部屋へと足を向けた。撫子さんが言うには、やはり疲れから熱が出たようで、今はすっかり熱は下がっているものの多分部屋で寝ているとのことだった。
寝ているときに訪れるのも、という少しの罪悪感はあったもののの様子が気になるのと、寝顔が見たいという少しの下心に負けた。
カチャリという音とともに部屋の扉を開けて中の様子を伺う。
「?」
返事はない。
部屋に入って扉を閉める。全体的に桃色と白色でまとまった彼女らしい部屋。いかにも女の子の部屋という感じだ。
でも何より、彼女からいつも香る甘い匂いが、部屋全体から強く香る。本当に、眩暈がしそうだ。
奥にあるベッドに目を移すと、スースーと寝息を立てて眠る。昨日の苦しそうな浅い呼吸とは違う落ち着いた呼吸だ。
ベッドサイドに座って、おでこを触ってみる。自分と変わらないその温度に安心する。
こんなに彼女の顔をジッと落ち着いてみることが無かったけれど、改めて見てみると本当に整っていると思う。
長い睫毛、透き通った白い肌、桃色の頬。
前にテレビで見たビスクドールのようだと思う。
ふと、ベッドサイドに置かれたテーブルに写真が置かれていたのが目に入った。
小さい頃のと、今より少し幼い。
どの彼女の隣にも、あの幼馴染だという音駒の2人が写っている。
自分の眉根に皺が寄るのがわかる。
自分よりも、断然多くの時間を彼女と過ごしてきた2人。
練習試合の時に見た、が気を許し切ったその態度。
何もかもが、気に食わない。僕にもあんな顔を向けてほしい。気を許してほしい。ドロドロに甘やかしてあげるから。
キミと過ごした時間が足りないのなら、もっと側にいるから。
ふと、布団の端から出ているの手が視界に入る。
僕はそっと、白い彼女のその指を握った。