第15章 練習試合 対音駒高校戦
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『クロちゃん、後でねっ。』
そう声を掛けてから、キョロキョロと私を探しているのであろう蛍の元へと移動した。
ドキドキと、今までにない程高鳴っている心臓を抑える。
顔も熱い。絶対に今私の顔は真っ赤に染まっている。
クロちゃんの、さっきまでの様子が今までのクロちゃんとなんだか違う気がして、どうしたらいいのか自分でもわからないのだ。
小さい時から一緒にいて、いつも側にいて、こんな風にドキドキしたことなんてなかったのに。
私を触る手も、見つめる目も何だか今までと違ったのだ。
それに……。
『よ、嫁…なんてっ。』
クロちゃんのいつもの軽口だ。
そう思うのに、ドキドキとうるさい心臓はなかなか収まってくれない。
それでも、時間が止まってくれる訳でもないし、蛍までの距離が長くなる訳でもない。
荷物を持ち上げて、私を待ってくれている蛍の元へとたどり着いた私は、必死に心を落ち着けて蛍を見上げた。
『待たせちゃってごめんね。』
「別に、そんなに待ってな…っ?」
突然止まった蛍の言葉を不思議に思い首を傾げると、蛍は何だか困ったような、少し怒っているような顔をした。
『ど、どうしたの?』
「、何かあったの?…泣いたの?」
蛍に言われて思い出す。そういえば、私はクロちゃんに相談していた時に不覚にも泣いてしまったのだった。クロちゃんや研磨に抜けていると言われていつも否定しているけれど、きっとこういうところだ。少し考え事が増えると、気が回らなくなる。
慌てて目を隠すように手を当ててみるけれど、それはすぐに蛍に止められてしまった。
「そんな風に手を当てたら、擦っちゃうデショ。余計赤くなるからやめなよ。」
そう言って、蛍は手に持っていたタオルをふわっと私の頭の上からかけた。
『…蛍?』
「いいから、それ、取りあえず持ってなよ。」
言われた通りに、蛍のタオルで目元を隠す。
勿論、前が見えるように目は出している。タオルから香る蛍と同じ洗剤の爽やかな香りに、何だかくすぐったいような、気恥ずかしい気持ちになる。
「…山口。」
「ツッキー!どうしたの?」
「帰りのバス、誰か違う人の隣に乗って。」
「え?あ、うん。それは大丈夫だけど、何かあったの?」