第15章 練習試合 対音駒高校戦
「別に、ちょっとね。…ほら、そろそろ行くよ。」
蛍の思惑がいまいちわからず、されるがままに私は自分の荷物を抱えなおして他の皆が外に移動するのに倣って自分たちも外に出る。
新緑の季節であるこの5月は、日が落ちるのも冬に比べだいぶ遅くなってきた。ヘトヘトになるまで続けられた練習試合が終わった後でもその空はまだ明るさを保っていた。
茜色に染まりつつある空を見上げると、泣いてしまったその目が少しジンジンとした。
それぞれが、別れの挨拶を済ませているのを何となく不思議な気持ちで見つめる。さっきまでは、嬉しいような、それでも音駒のメンバーを見ると寂しい気持ちが溢れて苦しいような、そんな気がしていたけれども、やっぱりクロちゃんに話を聞いて貰ったからだろうか、寂しいという気持ちは勿論あるけれど胸が潰れそうな、そんな苦しい気持ちはどこかに行ってしまったようだった。
わがままを言ってもいいと言ってくれた。
それを咎めるような人は烏野にはいないんじゃないかとも。
自分でも、自分のやりたいことをそのまま押し通そうとすることが苦手だということは何となく理解している。
それでも、このままではだめなんだと、そう思う。
わがままを言えるようになる、なんて変な感じだけれど、少しずつ変わっていけたらと思う。
少し離れたところに研磨とクロちゃんの姿を見つける。
隣にいる蛍に声を掛けて、2人に駆け寄った。
『クロちゃん、研磨っ。』
2人は私を見るとフワッと笑ってくれた。
「。」
研磨が私の腕を持って引き寄せると、フワッと抱き締めた。
研磨のいつもの香りにほっとする。
私の頭のてっぺんに、研磨の頬が押し付けられたのがわかる。
グリグリと押し付けられてくすぐったい。
「。またね。ちゃんと元気でいて。」
「東京で待ってるからな。」
『うん。』
「が来るって母さんに行っておく。」
『ふふっ。気が早いよ。でも、ありがと。絶対に応援に行く。』
私がそう言うと、2人は子供の時みたいなニコっとした顔で笑った。
私も嬉しくなって、顔が綻んだ。
こうして、音駒メンバーとも別れを告げて、私のGW合宿は終わりを告げた。
新緑の風に、ほんの少しの私の成長を匂わせながらバスは帰路についた。