第15章 練習試合 対音駒高校戦
「さて、それはどうでしょう。」
『もー!!』
そう言ってニヤリと笑ってやれば、急にこちらに向き直って、胸のあたりをポカポカと叩かれる。
全然痛くないそれは、ただ可愛いだけでしかなくて。
「まぁ、俺は昔も今も、お前しか目に入ってねーよ。」
『へ。』
きょとんとした顔。間抜けな声。
またおかしくなって笑いが漏れる。
「はい、この話は時間切れ。続きはーまた今度、東京に来た時だな。」
『え、あの、クロちゃん!』
「ほれ、烏野のやつら、お前のこと探してるんじゃねーの?」
『えっ?ぁ、ほんとだっ。···クロちゃん、後でねっ!』
「おー。」
ふわふわとした髪を揺らして、俺の元を去る。
その背中を見送ると、入れ違いになるように研磨が駆け寄ってきた。何にでも大抵無気力な研磨が、のことになるとこんな風に駆け寄ってくる。その様子が面白くて、ニヤッと笑みがこぼれるのを自覚する。それを見る研磨の顔が怪訝に歪められているのを見て、また笑みが深くなる。
「···なに、なんでそんなにニヤニヤしてるの。」
「べぇつにぃー。」
「まぁいいや。は?···大丈夫だったの?」
「んー。まぁ、大丈夫だと思うよ。」
「何だったの?」
「簡単に言えば、ホームシック?」
「···ほーむしっく?」
「まーた色々考えてたみたい。それと、の中で俺たちの存在が、結構でかかったみたいよ。」
ふと、研磨の目が見開かれる。
「俺たちの側にいたいって泣いてた。···まあ、それは今の状況じゃ無理だってわかってるから。試合は見に来いって言っといた。」
「ふーん。それで?」
「ん?そりゃ、来るってよ。」
「そう、来るんだ。」
「おー。ちったぁやる気出た?」
「まぁね。勝ったらが笑うから。」
「お前は本当にブレないね。」
「クロうるさい。」
こちらを睨みつけてくる研磨にまた笑みがこぼれる。
研磨の肩越しに見えるの姿。
眼鏡のノッポくんに笑いかけるその姿に、何となく黒い感情を抱えつつも、今はただが泣かずに笑っていてくれるのならとその感情を抑え込む。
「さ、東京に帰らないとね。」
それは研磨に言ったのか、自分に言い聞かせたのか。
小さな声が、体育館に消えていった。