第15章 練習試合 対音駒高校戦
side 黒尾 哲郎
「はいはい、ちゃん。落ち着いたらボトル洗ってもどりますヨー。」
『あっ、うん!』
さっきまで、小刻みに震えていた体が落ち着いたのを感じてから抱きしめていたをそっと離す。
ニコリとほほ笑んでこっちを見上げたの顔は、さっきまでの不安な色を無くしていつも通りに見えたことに安堵する。
試合が始まる前から、不安そうに歪められていた顔。いつもいつも隠しているつもりなんだろうけど、何年一緒にいると思ってるんだよ。いつも見てたんだから、少しの変化でもわかるのは当り前だろ。
小さい時から、仕事で両親がいないことが多かった。変に気遣いをするこいつは、親に迷惑を掛けない為かいつの間にかあまりわがままを言わなくなった。それと同時に、あまり弱音も吐かなくなった。こっちが気付いてやらなきゃ、溜め込むようになった。
俺は尚更、の様子を気遣うようになった。それは研磨も同じだった。
俺や研磨が聞いてやることでが笑顔でいられるならそれでいい。
だけど今は、俺や研磨が側にいてやれない。やっぱりこの距離が恨めしい。だからと言って、宮城で俺たちと同じような存在が出来るのも癪に障る。
この役目を負うのは俺たちだけでいい。
ボトルを洗い終えて、体育館までの道のりを歩く。
隣を歩く小さな存在。前までは当り前だったその姿。ふわふわと揺れる髪。時々チャリッと音のする髪留めが目に入って、また愛しさが増す。
「それにしても、そんなに寂しかったなんてなー。」
『そ、それは。だって、ずっと一緒だったんだもん。離れちゃったら…凄く寂しいよ。隣にいるのが当たり前だったから。』
「あー俺、いいこと思いついた。」
『いいこと?』
「俺が18になったら嫁に貰ってやるから、東京に戻って来いよ。」
『…よ、嫁!?』
ポカンとした後に、真っ赤に染まる顔。また愛しさが募って思わず頭を撫でる。その顔を間近で見たくて、顔を覗き込む。
だけど、その顔はすぐにふいっと反らされた。顔をそらされても、真っ赤になった耳が目に入って、思わず笑いが漏れた。
「おやおやー。ちゃんお顔が真っ赤ですよー。」
『く、クロちゃん、からかってるでしょ!』