第15章 練習試合 対音駒高校戦
「ゆっくりでいい。少しずつでいいから話せ。」
『っ。』
クロちゃんの優しい声。
ずるい。いつもそうだ。覗き込んできたその優しい顔。
小さい時からそうだ。クロちゃんはこうして、私の弱音を聞いては掬っていこうとする。
『クロちゃん。あのね、私、宮城に来て·····またマネージャーして
、烏野で頑張ろうって思ったの。』
「うん。」
『皆優しくしてくれて、毎日楽しくて。···潔子先輩もね、私に期待してくれて試合でベンチに座ってって言ってくれて。』
「うん。」
『烏野の先輩達が、少しでも長くコートに立っていられるように、尽くそうって、思ったの。』
「うん。」
『なのにっ、わたし、いつの間に···こんな、欲張りにっ。』
自分の頬に冷たいものが流れるのがわかる。
こんな、私が泣いたって仕方がない。そう思うのに、全然止まってくれなくて。
ジャージの袖で、涙を拭う。
私の小さい手のひらで抱えきれるものなんて少ししかないんだと、それを零さないように大事にしようと思った。
あれもこれもだなんて、そんなに沢山抱えきれないなんてことはもう知っているのに。
『っ研磨とクロちゃんの側に····いたいって、思っちゃったっ···。』
烏野のマネージャーになったからには、皆を支える為の覚悟が必要だと思っている。それが、一生懸命に練習を重ねる皆への責任だと思うからだ。勿論それを果たしたいと思う。
でも、その反面、研磨とクロちゃんのことを思う。
クロちゃんは、今年高校3年生。もう最後の年なのだ。あと何度、2人がコートに立つ姿を見られるのだろう。
もしかしたら今日が最後になるのかも。そう思うと、寂しさとやり切れなさで胸が張り裂けそうになる。
私がマネージャーを始めたきっかけは何だったのか。それは研磨とクロちゃんのバレーを支える為だったのに。
烏野マネージャーとしての責任と、クロちゃんと研磨のバレーを見守りたいという気持ちは、何だか相容れないもののような気がして、板挟みになったその心が苦しいのだと唐突に理解してしまった。
『っ無理だって、わかってるけど····どうしたらいいか、っわからない。』
泣きじゃくって、袖で涙を拭う私。
その私の腕をクロちゃんは優しく掴んで引き寄せた。