第15章 練習試合 対音駒高校戦
再開された練習試合。
研磨の言う通り、やっぱり日向くんはブロッカーのいない方に向かってスパイクを打ちに行く。
日向くんのスパイクを止めることに集中しだした犬岡くんは、凄い反応速度で日向くんのスパイクに慣れていく。
『犬岡くん、凄い反応スピードですね。反射神経もいい。』
「1つのことに集中させると、あいつは強いんだ。」
音駒には、梟谷のぼっくんや、井闥山の佐久早さんみたいなエーススパイカーや天才がいる訳じゃない。
烏野みたいに、天才的なセッターである影山くんみたいな人だっていないし、日向くんみたいな超人的な瞬発力を持っている人だっていない。
それでも、それでも音駒は強い。
バレーボールは、超人的なエースがいなくたって勝てる。
なぜならそれは、ボールを落としさえしなければ負けないからだ。
相手がこう動くだろうという予測がずば抜けている研磨。
その研磨を支える皆の安定したレシーブと、幅の広い攻撃。やっぱり皆は強い。
『猫又監督、少しだけ上から見てきてもいいですか?』
「おぉ、構わないよ。行ってらっしゃい。」
猫又監督に許可をとって2階のギャラリーへと移動する。
練習試合の時にしか出来ないことだけれど、こうして2階から試合を見ると、ベンチから眺めているのとはまた違う視点から見ることが出来る。
2チームの全体の動きがよく見えるのだ。
『烏野も、成長が凄いなぁ。』
まだ荒削りだけれど、この練習試合の間にもどんどんとお互いの技術が向上していっているのがわかる。
こういうのを、好敵手というんだろう。
凄いスピードで成長していくこの烏野のチームを見守りたい。
そして潔子先輩に託された以上、その期待に応えたい。
でもその反面、やっぱり東京に帰ってしまうクロちゃんや研磨を思うと寂しい気持ちはどうしても抑えられない。
手摺をぎゅっと握って、顔を埋める。冷たい鉄の感触が熱くなった手の平を冷やす。
ずっと2人を追いかけてきた。
宮城に来て、2人のバレー生活に関わることがもう難しいということを割り切れたつもりでいた。でもやっぱりそれは、本当に”つもり”だったんだろう。目の前でこうして見てしまうと、こんなにも胸がザワつく。
結局私は、このザワついた気持ちを持て余したまま2階のギャラリーからベンチに戻り、気づけば練習試合は音駒高校の勝利で幕を下ろしていた。