第15章 練習試合 対音駒高校戦
「高校は、本当は音駒に来る筈だったの?」
『····うん、本当はね。研磨とクロちゃんと一緒の所って思ってたから。』
「そうなんだ。さんが音駒のマネージャーだったら良かったのにな。」
『·····っ。』
何気ない会話。何気ない一言。
でも、考えないようにしていたことが、少しずつ溢れてしまうような気がした。
研磨とクロちゃんがコートに立つ姿を、ずっと見ていたかった。
側にいたかった。もっと2人に色々してあげたかった。
「····さん?」
『···っえ?』
「ごめんね、僕、何か言っちゃいけないこと言った?」
いつの間にか止まっていた私の足。焦ったように顔を覗き込んでいる柴山くん。
『あ、ううん。なんでもないの、大丈夫!』
考えたらダメ。どんどんと、どうすることも出来ないモヤモヤとした気持ちに飲まれてしまいそう。
心に蓋をして。出てこないように、きつく、きつく。
大丈夫、ちゃんとしまっておける。
『早く戻って、柴山くんもアップ始めなきゃね。』
「あ、うん。」
止まっていた足を何とか前へと動かす。
考えてはダメ。私は今、出来ることを精一杯やるだけ。
給湯室から体育館までの道のりを、柴山くんとまた何気ない会話を交わしながら足早に向かう。
どんどんと近くなってくるボールの音。
入り口まで近づくと、薄暗い廊下から、明るい照明のついた体育館との明暗の差で少し目が眩む。
『えっと、籠はベンチの側に置いてもらって。』
「ここかな?」
『うん、ありがとう。助かりました。』
「じゃあ、僕はアップしてくるね。」
柴山くんは、ドリンクの入った籠を置くと、すぐに皆の元へ向かっていった。
その背中を見送ると、その視線の先で研磨とクロちゃんがコートの中でアップしているのが目に映る。
相変わらずの研磨の面倒くさそうな顔。それを咎めるクロちゃん。少し前までは、当たり前に見つめていたその光景。
頬が緩むのを感じながらも、やっぱり心臓の辺りがぎゅっと痛む感覚。それでも私は、それに気づかないフリをして、ベンチに座る猫又監督の元へと移動した。