第15章 練習試合 対音駒高校戦
『えーっと、研磨は少し薄め、クロちゃんと衛輔くんは濃いめ。』
給湯室で、順番にドリンクを作っていく。
少しでも飲みやすいように、皆の好みに合わせてドリンクを作る。
海くんと虎くんは基準分量通り。初めて会った犬岡くんと柴山くんは好みが分からないから取り敢えず分量通り。
小さな桃色の付箋にそれぞれ名前を書いてペタッと貼り付ける。
これで置いておけば誰の分かすぐにわかる。
あとは、休憩中に使えるように冷たい濡れタオルを作っておくか、と持ってきたタオルを水道で濡らす。
ドリンクと、濡れタオル。結構な重さになってしまうかな、2回に分けて持っていこうかな、と考えていると入り口から声が聞こえた。
「っさん。」
『あ、柴山くん。どうしたの?アップは?』
「僕は控えなので、戻ってからアップしますっ。黒尾さんが、さん手伝ってやってくれって。」
『そうなの?わざわざごめんなさい、でもとても有難いです。』
「これ、持ちますね。」
『ありがとう。·····あの柴山くん、同じ1年生だし敬語はいらないよ。』
「え!?あ、えと、はいっ、じゃなくて、うん。」
『ふふっ。』
柴山くんは、濡れタオルとドリンクの数本入った籠を持ち上げると、私と一緒に給湯室をあとにした。
少し薄暗い廊下に、2人分の足音と、少し遠くから聞こえるボールの跳ねる音とシューズが体育館の床を踏みしめる音が響く。
独特のこの雰囲気は嫌いじゃない。何だかいつもとは違う、特別な感じ。
「あのっ、さんは、中学までは東京にいた···の?」
『うん。高校の入学と同時にこっちに引っ越して来たの。』
「宮城に引っ越してくるまでは、ずっと東京に?」
『そうなの。クロちゃんと研磨とお家が隣でね、研磨なんて生まれてからずっと一緒だったの。』
「そういえば研磨さんがテーピングしてるところ、初めて見た!」
『研磨は手先が器用だから、きっと自分で巻けるのに、すぐさぼっちゃうの。だから、私が巻こうと思ってすごく練習したの。』
「そうなんだ·····そんなに仲良しだったのなら、離れちゃって寂しいんじゃ。」
『ん?·····んー。そうだね。····すごく、寂しいかも。』
柴山くんとお話していて、急に心臓の当たりを掴まれたような、息苦しさを感じる。
寂しい。寂しい。