第4章 友達
side
「…どうしたんですか?さん」
『ちょっとね…嫌な奴に会って話してきた』
「嫌な奴、ですか。どんな方なんですか?」
『やめようよ。テツヤといるときくらい、思い出したくない』
すみません、とテツヤは言う。テツヤにそんな表情をさせたいわけじゃないのに。
するとテツヤはあたしの気持ちに気付いたのか、大丈夫ですよと言ってくれる。まだ会って数日なのに、テツヤの言葉はスゥッと胸に染み込んできた。
『テツヤぁ~』
「ふふっ、甘えん坊なんですね、さんって」
『テツヤにだけだよ~』
「よしよし」
テツヤの膝の上に頭を乗せて横になる。すると頭を撫でてくれて、その手の心地良さに睡魔がやって来る。昨日バイトしてて夜遅かったからなぁ。
スナック橙乃。
言うまでも無く、あたしのお母さんが働いているスナックだ。
小さな店で、客と言えば常連のみ。けどそこそこ人気もあるのは、お母さんのおかげだろう。
二児の母とは思えないほど若く綺麗に見えるお母さん。たまにバイトとして入り、店の手伝いをする。給料なんていらないけど、お母さんは社会勉強だと言って、中学生には似合わないくらいのお金をくれる。
だからあたしもそのお金に似合うくらいの働きをしなければ腑に落ちない。