第4章 はしやすめ
コンコン
中で集中して書物を読んでいるであろう主の気を逸らさない様に控えめにノックする。
「紅炎様。お茶請けをお持ち致しました。入ってもよろしいでしょうか?」
と問えば「ああ」と短く返ってきた。それを聞き届けて中に入る。力魔法で浮かせているお盆を手に持ち、紅炎様の机に置いていく。
「今日は先方から頂いた生姜煎餅です。生姜の程よい尖った辛さが砂糖とマッチしていてとても美味しいのでお気に召して頂ければ幸いです。砂糖、と言ってもそこまで甘くないので悪しからず。」
説明すれば、聞いているのか分からない、「ああ」という先程と同じ答えが返ってきた。まぁこんなことザラにあるから気にしないけど。湯のみに淹れたてのお茶を注ぎ、コトリと置いてお盆を持って速やかに退出しようとすると、「なぁ、」と話しかけられた。
「はい。」
「どうすれば良いと思う。」
「えっ...と、何がです?」
手で来いと招かれたので、紅炎様の横に失礼して、彼が先程から熱心に見つめている書物を見ると次の部隊の編成のものであることが伺えた。
「次の戦いで、どういった陣にしようか考えていてな、」
「...敵の情報はありますか?」
ぽんと渡された敵の情報が書かれた書物。成程、
「敵の戦略的に恐らく次は逆行陣で来ると思います。ですから次の陣形は雁行陣でどうでしょうか?」
近くにあった書き物を拝借して絵を描いて説明する。
「やはりに聞いて正解だったな。成程、助かった。礼を言う。」
「身に余る光栄でございます。」
「.....そういえば、」
紅炎様はそう口を開くといきなり私の腕を引っ張った。突然のことで驚く間もなく重力のまま引かれた先に椅子に座られている紅炎様の上にダイブした。
「あの、紅炎様...?」
倒れ込んだ私を抱きしめた紅炎様は黙ったまま。正直めっちゃ怖い。何これ。恐れ多いんだけど。というか人入ってきたらどうしよう...。なんてあっちゃこっちゃ考えていればやっと紅炎様が続きを口にした。
「に惚れたのはこの時だったのかもな。」
「...え...??」