第3章 本当のこと
あれから半年以上が経った。あの後、シンドバッド様がいらっしゃったり、夏黄文の昇進計画と称した紅玉ちゃん可哀想事件等色々なことを経て、今に至る。
そうして今日、やっと紅炎様が戻られる日。待ちに待ったこの日。私は朝からずっとそわそわしていた。
北天山の西端に遠征した白瑛様と白龍様が戻られ、あとは紅炎様を迎えるだけだった。
「総督のご帰還だ!!」
その声に皆が頭を下げる。勿論私も。
堂々と威厳のある姿で歩を進める紅炎様の前に立ちはだかったのは、先程の御二方だった。が、白瑛様は直ぐに頭を下げた。白龍様はそれを見ても平然としてそこに立ってあられる。
「白龍!?」
「なんと不遜な.........」
幾ら皇子であるとはいえ、白龍様より紅炎様の方が身分が高い。流石にこれには周りも驚いていた。そんな白龍様に眉ひとつ動かさず、紅炎様はすれ違いざまに賞賛の言葉を残し、そのまま通り過ぎた。
ハラハラした私は安堵のため息をついた。そしてチラリと顔を上げれば、バチりと合う視線。その目には何を考えているかが一切読み取れず、私は萎縮した。
「...。後で書斎に来い。」
「...御意。」
怖い...めっちゃ怖い...行きたくない...だけど、やっと会えた紅炎様だ。ずっと言いたいこともあった。ここで言わずしてどうする私!ここでしっかり言いたいことを伝えて、退職届を出して、紅炎様の前から速やかに消えるんだ。それが私のできることだ。
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書斎の前に立ち、緊張しながらゆっくりとノックをする。「です。」と言えば「入れ」と返ってきた。震える手を頑張って動かして、扉に手をかけた。
「お久しぶりです、紅炎様。本日はご機嫌麗しゅう。」
「.....長い間、何処にいた...?」
「...えっ?」
「何故、何も言わずに消えた?」
紅炎様の発する言葉に理解ができずに頭がホワイトアウトする。戸惑って俯いた顔をあげれば、紅炎様は先程のギラギラとした雰囲気ではなく、いつもより少し優しい、けど怒っているような、悲しそうな、そんな表情だった。
「...わ、私が、貴方様に...ひつっ、必要、ないからで、す...」
声が震えて上手く喋れない...。