第3章 山茶花と露天風呂
「才蔵さん! こっち見ないでください!」
「はいはい」
わたしは、なんとか、岩の上から降りて、才蔵さんから、少し離れた岩の陰の湯船にちゃぽんと入った。
(はぁ、なんか疲れたよ)
岩の陰から、湯船に浸かっている才蔵さんの横顔をそっと見る。
満足気に、湯船に浸かった才蔵さんの涼しい目元が、ほんのり色付いてて、なんとも艶めかしくて、どきりとする。
才蔵さんは、わたしの視線には気付いてない様な声で言った。
「お前さん、そんな隅っこに居ないで、こっちに来なよ。
そっからじゃ、山茶花見れないでしょ?」
岩の陰で、湯船に浸かって、頭を悩ませていると
才蔵さんが、言った。
「俺達二人だけなんだから、こっちに来な。次いつ来れるか分からない」
才蔵さんは、いつになく真剣な声で言った。
月の光の下で、才蔵さんの銀色の髪に、ひらひらと白い雪が舞っては消える。
才蔵さんの端正な美しい横顔に、ついつい目を奪われていると
「茹で蛸になる前に、引き揚げないとね」
と言って、才蔵さんが、ざぶんと、湯船から立ち上がって、わたしの方へと歩いて来る。
えっ!!!
才蔵さんは、わたしの直ぐ傍の岩まで来てそこに腰掛けた。
才蔵さんの逞しい身体から湯気が立ち上り、その身体は、ほんのり赤く色付いている。
(才蔵さん、色気あり過ぎだよ、心臓に悪いよ)
才蔵さんは、ゆっくりと岩から降りて、わたしの横にちゃぷんと浸かった。
!!!
「やっぱり、ここ岩しか見えないじゃない。行くよ」
才蔵さんは、縮こまってるわたしの腕をぐいっと引っ張って
わたしを立ち上がらせると、軽くひょいっと 抱き上げる。
「さ、才蔵さん!ちょっ!」
「はいはい。じたばたしない」
才蔵さんは、一番見晴らしのいい場所を見付けると
わたしを静かに、湯船の中に降ろしてくれた。
そして、自分もわたしの横にちゃぽんと座って、足を伸ばし、大きな欠伸をした。
「ふあーっ」
「今朝早かったから眠いね、お前さんは?」
「えっと、わたしは大丈夫です」
わたしは、さっきから、ドキドキしっぱなしの心臓を押さえて言った。
才蔵さんの右手が、わたしの肩に回った。
!!!
「さ、才蔵さん!!!こ、ここでは!!!」
「お前さん、何一人で妄想してるのさ。こう言う所で して欲しかった?」
!!!
「違います!!!」