第3章 満月の光零れる夜
いくつかの、季節が巡り
わたしは、愛しい才蔵さんと祝言を上げた。
お腹には、ややが居る。
「綺麗な桜が今年も見事ですね」
「だね」
「ずっと、ずっと、わたし才蔵さんと巡る季節の中で
永遠へ時空を超えて、毎年 毎年 子らと共にお花見したいんです。
叶うでしょうか?」
わたしは愛しい人の子を宿す喜びを才蔵さんに教えて貰った。
いや、わたしの喜びは全てこの人から始まったのだ。
「姉ちゃん!」
「弥彦!」
「 お前無理するんじゃあないよ。お腹にややが居るんだからね」
「お母さん!」
わたしの大好きな家族 死んだお父さんも。
「夜は冷えるから 部屋入るよ」
「はい」
ややが出来て才蔵さん 前よりもずっと ずっと優しくなった。
もう充分なのに.......。
お母さんも弥彦もずっと、ずっと優しくなった。
もう 充分なのに(笑)
満月が わたし達全てを優しく写し上げている。
満月の中に、優しくて几帳面で真面目で勉強熱心だった父の慈愛が光の雫の塊となって大きく花開く様な瞬間を見た。
幻の様な感覚。
でも 幻の様な儚いものでは無くて、心に広がるのは
優しい切ない確かな愛。
お月様の光は父の慈愛に満ち溢れていた。
「ありがとう、天国のお父さん!」
「わたし 必ず幸せになる!」
いや、ならない訳がなかった。
こんなに大事に大切に愛されていて
「気付けずごめんなさい」
わたしは、風に言の葉を零す。
「はいはい」
「ややが風邪引く前に部屋入るよ」
才蔵さんは、深い愛情のこもった優しい目でわたしを見つめると
わたしの手を優しく握った。
「おーい!才蔵!」
どうやら お酒を持った幸村様が 玄関先に着いた様だ(笑)
才蔵さんは、玄関先をチラリと優しい目で見た後こう言った。
「叶うんじゃない?お前さんの願いなんだからさ」
「え?」
「ふふふっ」
「伊賀の忍でしかなかった才蔵さんとこうして一緒にいれるわたしの願いです。叶わない筈ありませんでした」
「でしょ?行くよ」
才蔵さんは、わたしの手を優しく握り締めた。
〜完結〜