第5章 おしゃべり(二)
わたしは、炊事場で女中の梅子さんや、松子さんと、ゆうげの後片付けも終わり、賑やかに、いつもの様に、お喋りに、花を咲かせていた。
「柚さん、それにしても柚さんの今日のかんざしは、とっても愛らしくて素敵よ」
梅子さんが、目をきらきらとさせて、わたしのかんざしを見つめて言った。
「そうね、わたしも、とっても素敵だって思うわ。信玄様に頂いたというかんざしも素敵だったけども、柚さんには、その可愛いらしい桜の花飾りが付いたかんざしの方が、とても似合ってる」
松子さんも、わたしのかんざしを見つめて言った。
「これ、才蔵さんに頂いたんです」
(頂いたっていうか、刺されたんだけど)
わたしは、にこやかに笑って髪に刺さったかんざしに手を触れる。
「まぁ、羨ましい。やっぱり恋仲だから、才蔵さん柚さんが似合う物お分かりになるのね」
梅子さんが、今度は羨まし気に言うと、松子さんも、コクコクと頷く。
「俺も柚が、先生に貰ったかんざしの方が良く似合うと思うぞ」
いつの間にか来た、佐助くんも、大きな目でかんざしを見つめて言った。
「さすが、先生だな」と言ってサスケくんは、炊事場をキョロキョロ見回している。
「お主は、お団子を探しておるな、お団子はさっき才蔵さんが全部食べてしまったぞよ」
と、わたしは、クスクス笑いながら、佐助くんに言う。
梅子さんも、松子さんもクスクス笑いながら、そんな、わたしと佐助くんのやり取りを見ている。
「えー、先生ずるいなぁ。柚、俺のために、お団子作ってくれよ」
佐助くんが、子供らしい可愛い顔をして口を尖らせて言った。
「うん、佐助くん、今から作ってあげるから待っててね」
「おーい、才蔵!」
どこかで、才蔵さんを探す幸村様の声が聞こえる。
屋根の上で、炊事場のやり取りを聞いていた才蔵は、柚の作った団子を食べながら、茜色に染まり始めた空を優しい目で眺めていた。
屋根の上でお団子を食べている才蔵を見つけた幸村が言った。
「お前、そんな所に居たのか、御館様が探しているぞ。才蔵。降りて来い」
「はいはい」
才蔵は、屋根からひらりと降りると、炊事場で楽しそうに笑うを柚ちらりと見てから、幸村と歩いて行ったのだった。
〜完〜