第4章 和歌とかんざし
わたしは、文机に向かって さっきから、頭を抱えていた。
《お団子を .....食べてる.....君の...愛しさよ....お団子作って
お団子捧ぐ》
「うーん、やっぱり、和歌って難しいなぁ」
わたしは、昨日、お茶を 信玄様と家臣の皆さんにお出した時の
信玄様の言葉を思い出していた。
《武士たる者は、武術だけを、磨いてはならぬ、豊かな教養を磨く事もまた、武士たる者の務めだ。和歌に精通する事もまた武士としてなくてはならない才だ。お前達も武術だけでなく、和歌を詠む事も日頃の務めとしろよ》
「そう言って信玄様は、雄々しく広間を去って行ったんだよね」
「うん。やっぱり、わたしも、料理だけでなく、豊かな教養も磨こう!和歌の一つくらい詠まないと!」
そう思うものの、筆は一向に進まない。
「あー、でも、難しいなぁ。和歌って」
「《お団子を、食べてる君の、愛しさよ、お団子作って、お団子捧ぐ》」
!!!
「へー、毎日、お団子に押し潰されそうな和歌でいいね」
!!!
「才蔵さん!返して下さい!!!」
才蔵さんは、文机にあった筈のわたしの和歌を書いた和紙をわたしの後ろに座ってのんびりと眺めている。
「まだ、出来上がってないんです!出来上がったら もっと、、、、」
と言いかけて 、んーっと唸ってしまう。
「で、お前さん 。いつから、武士になったのさ」
!!!
「ん?、、、、、。」
「単純」
そう言うと、才蔵さんは、後ろからわたしの頭をぽんっと叩くと、部屋から出て行ってしまった。
才蔵さんが、置いていった和歌を書いた和紙を拾おうとした時、
わたしの頭でしゃらんと音がした。
不思議に思って髪を触ると、わたしの髪にかんざしが刺さっている。
そっと引き抜いて見ると
わたしの手には、愛らしい小さな桜の花飾りがいく筋も付いた淡い薄紅色のかんざしがあった。
かんざしの小さな桜の花飾りは、優しくしゃらしゃらと揺れている。
「才蔵さん!!!!!」
嬉しさで胸がいっぱいになったわたしは、才蔵さんの姿を追って部屋を飛び出した。
才蔵さんは、いつもの桜の木の上でのんびりとお団子を食べていた。
「おーい 才蔵!」
近くで、幸村様の才蔵さんを探す声が聞こえて来たのだった。