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第2章 1.01 横浜
「あの、太宰さん…。」
ある日の昼下がり。武装探偵社の社員である中島敦は、同じく社員で先輩の太宰治に連れられ、横浜の海岸通りを歩いていた。
探偵社で書類の確認などをしていると、突然太宰に“海へ行こう!”と言われ理由も分からず歩き続けて彼此30分。流石に理由ぐらいは、と太宰に声を掛けた途端、突如として周りからどよめきが起きた。
「な、なんだ…!?」
突然のことに敦は声を発すると、太宰は至って落ち着いて海の方へと指を指す。
「敦くん、アレを見たまえ。」
そう言われ、敦は太宰の指を追って海を見る。更に其れを見て、敦はついに言葉を失った。
「ふむ。あれは城…と云うよりは“要塞”、だね。」
太宰は突如として現れた其れを見て思ったことを口に出す。
「どうしてあんな物が急に…!?な、何かの異能力でしょうか…?」
敦は混乱する頭を落ち着けつつ太宰に尋ねた。
「さぁ、其れはまだ分からないね…。…あ、もしもし国木田君??」
敦の質問に答えると、太宰の携帯が着信を知らせ、太宰は発信者を見ることなく出ると、その名を口にする。
《何処をほっつき歩いているこの唐変木!!!!お前が自殺の算段をしている間に大変な事にだな…!!!?》
突然の爆音に敦は耳を塞ぎ、太宰も携帯を腕一杯に遠ざけた。
「いきなり大きな声を出さないでくれ給え。耳が壊れる。…大変な事、と言うのは今海に現れた要塞の事かい?其れなら、今私と敦くんの目の前で海の上に浮いているけれど。」
太宰は携帯を耳に当て直すと、国木田の要件と現状を言い当て伝える。
《其れなら話は早いな。たった今、軍警から其の謎の建物についての調査依頼が入った。なんでも、突然其のような大きな建物が現れるのは何かの異能力では、という事で下手に手が出せんらしい。…そういう事だから直ぐに敦を連れて帰って来い!分かったな!!》
国木田はもう一度“入水などするなよ!!!”と釘を刺し電話を切った。
「ふむ。そういう訳だから敦くん。一度探偵社に戻ろうか。」
太宰は携帯端末をポケットに仕舞うと敦に向き声をかける。
「はい。…大丈夫なんでしょうか…。」
敦は太宰の言葉に返事をし、不安な表情をした。
「なあに。きっと面白いことが起きるさ。」
太宰はそう云うと、敦の不安を他所に口笛を吹きながら探偵社へと足を向けた。