第2章 新生活、開始!
不意打ちとばかりに顎を掴まれて、強引に向かされた視線の先には、斗真の無表情な視線。
キス、される
そう思ってぎゅ、て。
両目を閉じた、瞬間。
ふわりと、耳元に違和感。
「え?」
閉じていた両目を開けて、両手で耳へと触れる。
「めが、ね?」
「お前やっぱそれ、かけとけ」
「なん……?」
「外であんま素顔晒すな」
「………は?」
「じゃ、ねぇよバカ。お前自分の立場、いい加減学習しろ」
「……………」
え、と。
怒ってる、わけじゃなさそうだよ、ね。
「………あり、がとう?」
おずおずと、上目遣い加減に斗真を見れば。
「ああ、それなら正解」
ぐしゃりと髪の毛をひとなでしたあと、彼は満足そうにわらいながら。
自分の玄関を開けて入っていった。
「………」
何なの、これ。
「あ、姉貴。熱もーいーの?……なんか顔、変だけど?」
自問自答してるうちに、ガチャリと隣の玄関が開かれ、出てきたのは中学生の雷斗。
「ごめん、心配かけて。ふたりは?」
「あいちゃんが送ってった」
「あいちゃん?」
「相川さん」
…………噂の家政婦さん!!
やばい。
なんで?
たった1週間、168時間。
たったそれだけの間になんでこの子たち、こんなに馴染んでるの?
「姉貴?」
「気にしないで」
フラフラと重い足取りのまま、玄関に手を伸ばして開けようとすれば。
「姉貴の部屋ならないよ」
ピタリと、足はその動きを止めたのだ。
「隣だってさー」
なんて、間の抜けた弟の呟きひとつで。
「なんでっ?」
「さぁ?姉貴が気に入ったんだって。そのまま玉の輿狙っちゃえよ姉貴」
「いやいやいや、待って雷斗くん。何洗脳されてんの??お姉ちゃんいなくて駄目でしょ!絶対」
弟の肩に両手をおいて詰め寄っても、当の本人はけらけら笑って。
「意外と平気なもんだわ、これが」
「はぁ?」
「親父にこんな金持ちの親戚いたなんて意外だけどさ、みかの親戚なら姉貴とは血繋がってねんだろ。」
逆にポンポン、て。
何故か肩を叩かれる始末。
いやいや待ってよ。
警戒心丸出しだったじゃん、キミ。
どうやったらここまで洗脳出来ちゃうの?
「姉貴は絶対、幸せになる権利あるよ」