第2章 新生活、開始!
「……………」
忘れてた。
いや、忘れてたわけじゃないんだけど。
だってちゃんとお財布の中には昨日頂いた中から1万円だけ、忍ばせておいたわけだし。
クラスメートの女の子からは。
「ま、そんなこともあるよねぇ」
なんて、笑い話ですんだんだ。
彼女に1万円を返して、終わるはず、だったんだ。
まさか依頼主であるお姉さんが直接学校にまで乗り込んでくるとは、さ。
まさか思わないじゃない?
「どーしてくれんのよ」
「すみません、ほんとわざとじゃ」
「それはとりあえず関係ないの。『謎のプリンス』が、あんたと消えたことが、問題なわけ」
「はぁ………」
誰よ、それ。
「たまーに飲み会に現れて、気に入った子お持ち帰りすんの。だけど誰も、名前も住所も通ってる大学も、知らないのよ。お持ち帰りされた子も、みんな口割らないし。もうなんか、都市伝説的に風化されてきた頃、現れたってわけよ」
「はぁ………」
風化って。
さらさら化石になるような器なんかなかったけど。
「で、本題ね」
前置き、長いから。
「昨日の彼のこと、教えてくれない?」
「は?」
「お持ち帰りされたじゃない。名前は?住所は?もう、大学の名前だけでもいいから教えてちょーだい」
「あのー?」
「一目惚れなの!お願い、お金渡せばなんでもしてくれるんでしょ?いくらでも渡すから教えて!」
「………ああ」
目の前で両手をパン、て、拝む彼女から泳がせた視線。
「昨日の1万円ならちゃんとあなたの妹に返したから。あたしの仕事はもう終わりだし、そのなんとかゆー彼は、あなたを選ばなかったわけだから、ストーカーまがいに追っかけたところで逃げられんじゃないですか」
パシン
て。
言ったところで走ったのは左頬への痛み。
「あんた、性格悪すぎ」
「………った。叩くときは声かけてからお願いします。こっちも心の準備あるし」