第13章 アイスキャンディ
「とりあえず、これね」
器用にスルリと一番下から抜け出すと、玄関にかけてあったたぶん斗真のコートをあたしにかけてくれて。
気絶したままの斗真の右腕を自分の肩に抱えて、寝室へと引きずって行ったんだ。
「………アイス、キャンディ?」
玄関に残されたのは、大量の小さなアイスキャンディ。
「………」
昔、まだパパが一人しかいない頃。
あたしのパパだけが、唯一のパパだった頃。
それはウチでの唯一の『贅沢』、だった。
偶然?
の、わけない。
だって透だもん、これが偶然のわけないじゃん。
今なら、散らばってる服かき集めて外に出れる。
透も斗真もいなくて。
ドアを開ければすぐに外だ。
パパを探して、全部聞き出すこともできる。
できる。
けど。
この状況だってきっと、わざとだ。
斗真があたしをここで抱いたのも、意識なくしちゃったのもたぶん偶然。
だけど、この状況であたしをたった一人ここに残したのは、たぶんきっと気が回らなかったとか、うっかりしてたとか、そんなことじゃなくて。
たぶんあたし、試されてる。
ここで今、ここを出たらきっともうここには戻れない。
そう。
『あたしが、どう動くのか』、透はそれを楽しんでるんだ。
「………行かなかったんだ」
カタン、て。
シャツについていた金属がドアを鳴らした。
「うん」
振り向きもせずにそう問う透の背中に頷く。
「アイスキャンディ、食べたくて」
そのまま透の隣まで歩みより、斗真の寝ているベッドの横へと腰掛ける。
「……溶けちゃったかな」
「溶けちゃった」
「また買ってくるよ」
「いい。溶けても食べれるから」
「そう?」
「………冷たい」
一口口に入れたその欠片は。
甘くて。
酸っぱくて。
すごくすごく、懐かしい味がした。