第13章 アイスキャンディ
「3時な、ちゃんと待ってろよ」
「はいはい」
「またね、來ちゃん」
「………」
じと、と恨めしげに向けた視線を打ち消すように車のドアが閉められて。
余韻も何もなく、真っ白なワンボックスカーは通学路を走り去って行った。
「はぁ……」
ほんと、朝からなんなんだろう。
あの双子。
珍しく斗真が運転してるなぁなんて視線を運転席へと向けていれば。
隣に座った透にいきなり唇奪われた。
そう。
いきなり。
「今日の薬、まだだよね」
とかなんとか言いながら。
毎回毎朝思うんだけど、薬って口移ししなきゃいけないもんなの?
水さえ頂ければあたしひとりで飲めるんだけど。
ため息ひとつ。
ひとりごちたところでなんにもかわりはしないのだけど。
「お嬢ちゃん、アイスキャンティ食べる?」
「は?」
盛大におっきなため息吐き出したところで後ろから徐に響いた呼び声。
に、振り向いて。
ばっとまた、正面へと向き直った。
眼鏡に、きつきつに結んだ髪の毛。
ジミっ子全開のあたしに、声などかかるはずなどないのだ。
さらにため息ごちて歩き出したあたしを、さらに『知らない』声、が、呼び止めた。
「來」
「ぇ」
「あーあ、美人が台無しだなこれ。誰の趣味だ?」
知らない、声。
……なんかじゃ、ない。
「ほらな、母さんそっくりの美人だ」
放心しているあたしの目の前へと回り込み、彼、いや、かなり歳上の男性、は。
あたしから眼鏡をす、と奪ったんだ。
「………どした?」
なおも放心するあたしへと、背中を屈めて視線を合わせると。
にこりと微笑む男性の、姿。
「……っ」
「なんだ、覚えてんじゃねぇか」
き、っと。
思い切り睨みあげついでに、1歩、後退、すれば。
楽しそうにふ、と笑いながらパチパチと手の甲であたしの頬へと、触れた。
「………來っ」