第12章 『すき』『きらい』

「…………」



ぇ。


少しだけ訪れた沈黙。
に。
顔を斜めに上げて視線だけで斗真を振り返れ、ば。



「んんぅ……っ」



視線で斗真を捉える前に、唇が先に斗真のそれに捕まったのだ。
後ろから首へと回された指先によって、限界まで上を向かされたまま重なった唇。
斗真の唾液を飲み込む度に、無理な体勢はついでに空気も大量に飲み込み形となる。


「斗真、ライちゃん苦しいって」
「は……っ、ぷはっ」

透の言葉に、離された唇。
肩を上下にさんざん酸素を貪り取り込んで。
瞳に貯まった生理的な涙を拭う。


「いちいちうるせーよ、お前は」



「………違う、の？」



ふたりの間にすっぽりと嵌まる形で場所を陣取りながら、斗真の裾を掴んだ。
あたしのその行動に、驚いたようにふたりは動きを制止、して。
ふたり視線を合わせてから、ふたりは同時にあたしへと視線を送った。


「斗真、あたしをすき？」

「は？」

「聞きたい。あたし、嫌われてないの？」
「は？なんでそーなんの」
「嫌われてないなら、聞きたい。斗真の口から。ちゃんと聞きたい」
「お前それずるくない？」
「え」
「お前は、『わかんない』、で。俺には答え求めんの」
「……ぁ」

そうだ。
あたし。

「……ごめん」


するりと、裾をつかんでいた指先から力を抜けば。
そのままうつむいたあたしの額を押すように、斗真の掌が重なる。
勢いに任せて顔が上を向くと。
斗真の揺れる瞳と視線が絡んだ。


「お前が聞いたんだかんな。責任持てよ？」
「？う、ん？」


「はっきり言って、お前が透とヤってんの、気にくわねー。」

「ぅえっ！？え、え？」


あ、あれ？
さっきと話、ちがくない？


「俺『だけ』のものならいいのに、って、思う」


「だから、チャンスあげたのに。斗真ってバカ？」
「お前は黙ってろよ、透」