第12章 『すき』『きらい』
それだけ、って。
それだけ、じゃ、ない。
それが一番、難しいんだ。
「………斗真はあたしを、許せないのかと思ってた」
「は?」
はぐらかすようにポツリと呟いた言葉。
「あれ以来、怒ってるみたいだった」
「………」
わかってる。
斗真の欲しい言葉はこれじゃない。
「怒ってるよ」
「………」
「正直ムカついた。目の前の奴を、まじで殺してやろーと思ったし」
「………」
「しかもお前、ひとがまじで激痛と戦ってる最中平気で透とヤリまくるし」
「………っ」
なん……っ
「、っ、で、それ……っ」
「普通めちゃムカつくと思わねぇ?こっちは気持ち抑えんの大変だったつの」
何、なんで。
「ヤったあとかどーかなんてすぐわかんだよ、お前は」
「嘘……っ」
な、何それ。
なんかの野生的なそれは。
「あ、あたしそんなにおかしいのかな」
なんか、普通じゃないとか?
ちょっとそれ、地味に恥ずかしいんだけど。
「まぁ。いんじゃねぇ?」
「よくないし!」
「だから、帰れっつったんだよ」
「?」
「お前の匂いとか、殺人的。我慢とか無理だし」
だから。
言葉足んないから。
主語と述語、使ってよ。
「來」
急に頬に触れた掌の感触に。
ビクン、て。
思わず示した反応。
そのまま視線を斗真へと向けたところで。
後悔した。
何を、言うつもりなのか。
わかっちゃった。
「とー……」
「俺と透、どっちがいい」
異論を許さない絶対的な声。
あたしのちっぽけな誤魔化しなんて、通用しない。
「……YESか、Noで答えらんないじゃん」
「はぐらかすお前が悪いんだろ」
「………」
誤魔化せ、ない。
まっすぐな瞳。
「來」
「………わかん、ない」
「お前な」
「わかんない!好きとか、よくわかんない」