第12章 『すき』『きらい』
『いらない』
そー言われた気がした。
車の中、透は怖いくらいにいつもどーりで。
優しく話しかけてくるし。
コンビニでは暖かいコーヒーまで買ってくれた。
家に着いてからも、助手席のドアは開けてくれるし、エレベーター乗るときも出るときも、透が壁になってあたしを人目から隠してくれた。
誰から、とゆーよりも。
暗い顔したあたしを、弟たちから守るように、だ。
だけど。
「明日斗真帰って来るよ。あとは斗真とよろしくやってよ」
「ぇ」
玄関入るとすぐに。
彼はそーいってあたしに背中を向けたんだ。
「斗真のご機嫌でも、取ってれば?」
「とーる?」
「俺はもー、いいや。適当に女の子と遊んでる方が楽しいし。ずっと甘いもん食べてるとさ?しょっぱいもん食べたくなるじゃん?ライちゃん甘くて美味しかったけどね、正直胸焼けしちゃったみたい」
いつもどーりの、軽い口調で。
あたしに背中を向けたまま、透は先ほど入ってきた玄関へと手を伸ばす。
「じゃ、『ごちそーさま』、ライちゃん」
「透、待って……」
追いかけようと伸ばした右手。
だけど。
ドアの向こうに消える瞬間に見えた透の眼差しは。
覆しようのない決意で細く光っていて。
伸ばした右手は、結局透の体へと触れることなく、宙をさ迷い落ちた。
「…………っ」
なんだっけ。
なんでこんなことになったんだっけ。
だって月の始めは3人で、仲良くやってたのに。
楽しく、そう思ってたのはあたしだけだったのかな。
「……これから、どーしようか」
透にも斗真にも見限られた今、弟たちさえも路頭に迷うことになる。
当面は、もったいないけどホテル暮らし、か。
アパート借りれないし。
あとはまた、バイトして。
前の生活に、戻るだけ。
そうだよ。
戻るだけじゃん。
夢から、覚めなきゃ。