第10章 すれ違い
「ライちゃん」
いつものように、ふたりに抱き潰されて眠りについた翌朝。
いつものように、透が口移しで例の薬を飲ませてくれた。
まだまだ眠け眼のままに、透から口移しで流されてきた冷たいお水をそのまま喉へと流し込めば。
透が不思議そうにあたしを見て動きを止めた。
「?」
「いや、あんな目にあったのに俺から薬飲むんだな、って」
「感心するポイントつくづく間違ってるよね」
「そうかな」
「妊娠は、あたしもしたくないもん。それだけよ」
「そっか」
さっきまでの不思議顔はどこへやら、今度はいつもの人懐っこい笑顔を惜しみ無くあたしへと向けてくる。
「……透」
「ん?」
なんとなく呼び止めてみたものの、やっぱり気になるのは隣でまた気持ちよさそうに寝息を立てる斗真。
チラリと、視線を斗真へと向けた。
「斗真なら、まだまだ起きないよ。知ってるでしょ?」
「………うん」
「何?」
「………」
呼び止めといて今さら、「なんでもない」はさすがになしだなぁ。
第一透はあたしが何を言おうとしてるのかたぶん絶対、わかってる。
「…………斗真が、好きっ、て…」
あたしが聞いたあれは、聞き間違い?
夢?
『何それ』なんて笑い流してくれることを期待したあたしの予想は、いとも簡単に裏切られることになるのだけど。
だけどたぶんあたし、あれが聞き間違いなんかじゃないことちゃんとわかってた。
わかってて、ほんとはちゃんと透の口から聞きたかったんだ。
「軽蔑した?」
「……しないよ」
「気持ち悪い?」
「悪くないよ」
「…………そ、っかぁ」
「うん」
「だからライちゃん、好き」
「うん…………、て、え?」
「ライちゃんは?斗真好き?」
「え?」
あれ、なんか話、すり変わってない?
「好き?」
「ぃや、えぇ…ー、と」
あれ。
なんかやっぱり話、おかしな方向言ってるよね?
「グダグダうるせーな。ただ一言頷きゃいい話だろーが」