第7章 崩れた関係性
『気をつけて』、の意味は。
それから数時間後、つまり放課後になってようやく、気付かされる。
透は、決して優しいわけじゃない。
必ず裏がある。
わかってたのに、充分すぎるくらいに体に染み込まされたはずなのに。
そんなことも失念しちゃうくらいに。
この奇妙な日常にたぶん、慣れすぎちゃってたのかもしれない。
「來?」
ガタンっ!!
って、掃除用具が床へと散らばっていく。
『あの日』、だ。
体が熱い。
息が出来ない。
胸が、苦しい。
急に座り込んだあたしを、クラスメートたちが心配そうにかけよってくる。
駄目。
触らないで。
今あたしに、触らないで。
「……っじょぶ、だから」
最悪。
こんな日に掃除当番なんて。
透と斗真の薬は、排卵前後に発作のように催淫作用をもたらす。
それがどんなものか、前回身をもって知った。
だからちゃんと計算して、掃除当番だって変わってもらったのに。
「………」
「來?」
そう。
あたし、計算した。
ちゃんと計算して、『念のため』掃除当番も変わってもらった。
次のヒートがくるのは確か、土曜日。
今日じゃない。
今日じゃない、のに。
なんで?
「來大丈夫?保健室行く?」
「ひとりでいける。ごめん」
違う。
今日じゃない。
なんで?
計算、間違えた?
どーしよう。
クラクラ、する。
熱い。
熱くて疼いて、仕方がない。
「…………來?」
ガタン、て。
目の前にあった扉を開ければ。
聞きなれた声が、耳に届いた。
「……まき、ちゃ……」