第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》
そして。
その一件をきっかけに、また引き籠もるようになりーーー
皆が気を遣って様子を見に来たり、天主に来いと信長様から何度か誘いがあったけれど、なにかしらの理由をつけて断る日々が続いていた。
「茅乃様、今日は庭園にて散歩をしてみては如何でしょう?旬の花々が見ごろですよ。天気も良いですし」
「書き物に集中したいので、せっかくですが遠慮します…すみません」
残念そうに去っていく女中を見送り、私は今日もこうしてぼんやり文机に頬杖をつく。
暇潰しに始めた日記はもうネタ切れで、とくにやる事もなくただ部屋で過ごすのみ。
このままじゃ駄目だよね。
自覚はしてるけど……
「城を出てひとりで暮らそうかな…
でも賃貸物件や仕事なんてそう簡単に見つからないよね」
右も左も分からない戦国時代で生きていく不安を抱え今後の身の振り方を模索していると。
遠くの方から忙しない足音が近付いてきて、
勢いよく襖が開いた。
さっきの女中が舞い戻ってきたのかと思いきや、黒い着流しをはためかせ飛び込んできたのはなんと……
「ののっ…信長様!?
どうしてここへ……」
よりによって今一番気まずい相手。
まさかここへ直接やって来るなんて。
こちらを見据える鬼気迫る表情ーーー
あまり目を合わせたくないのに、逸らす事も許されないような威圧感に圧される。
一体何事かと、戸惑っていたら。
「逃げるぞ」
がしっ、と私の手首を鷲掴むや否や、
部屋の外へと引っ張っていく。
「へっ!?ちょ、ちょっと…
逃げるってどこに……」
「どこに?そうだな……
この世の果てまでだ」
え……
えええっ!?
不可解な言動が更なる混乱を招く。
強く掴まれて解けやしない、それはもはや強制連行というやつで。
広い背中を見つめながら通路をひた走るーーー
いきなり何が起こったの!?
なんなのこの人は!?