第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》
「ついに出てきたか、茅乃。
病人に化けるのはいささか疲れたか?」
「…っ、それは、その…」
「まぁ楽しめ」
広間に着いて早々声を掛けてきたのは光秀さんで。
口元に不敵な弧を描き、定位置であろう席へ向かって通り過ぎていく。
ちょっと意地悪だけどどこか憎めない、不思議な人。
……仮病のことバレてる……
きっと、皆にも。
広間へと集まってくる武将の面々に気まずさを感じながらも、おずおずと指定された場所に座る。
膳には美しく盛り付けられた料理の数々が並び、まるで高級料亭に来たかのような感覚になり暫し見入っていると……
“あの人”の気配がした。
上座に腰を下ろし、
悠然と構える様は威厳に満ちている。
ーーー信長様だ。
全員が揃ったところで食事が始まり、
皆の様子を確認した後、私も箸を取った。
口に運べば深みのある出汁の風味が広がって、感想はもはやこの一言に尽きる。
「美味しい……」
「だろ?たらふく食ったら憂鬱も吹き飛ぶ」
横からひょいっと覗き込んできた政宗さんが、お櫃から掬った米を私の茶碗に追加した。
どうやら意外にも料理が好きらしく、腕前はプロ級と称しても過言ではない。
私が引き籠もっている間も何度か作ってくれて、どれもが絶品だった。
改めてお礼を伝えないとーーーそう思っていた、時。
「茅乃」
身体の芯まで響くような、重厚な声音。
「酌をしろ」