第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》
華やかな絵や洗練された装飾が施された天主の中はとても静かで、独特の重厚な声音がよく通る。
その言葉を脳内で繰り返しながら、私は時が止まったように固まっていた。
「えっと…ええっと…」
「なんだ、不服なのか」
「ち、違います!
なんていうか…その…本当に私でもいいのかなぁって…
臆病で、弱くて、たいした取り柄もないし、それに…」
「また始まった」
はぁ、と溜め息をつくや否や。
信長様は私の身体を強引に抱き寄せーーー
「何故気付かない?
炎に取り囲まれようが刃を突きつけられようが、毅然と立ち向かうほどの強さが貴様にはある」
「信長様…」
「あと笑い上戸という特筆すべき才も持っているしな」
「…ふふ、大袈裟ですよ」
「大袈裟ではない。
下心も皮肉も含まない貴様の緩みきった顔は荒んだ心を和ませる。
笑っている貴様の傍らこそが、殺伐とした乱世で見つけた安息の場所だ」
今日の味方は明日の敵。
勝つか負けるかーーー
皆が命懸けで武器を振るう、熾烈な争いが絶えない時代を最前線で走り続ける信長様。
疲れを少しでも癒やせるなら。
支えになれるなら…
私は、この人の傍らでずっと笑っていたい。
「最後にもう一度問う。
天下人の女にーーー奥になれ、茅乃」
自信がなくて、不安で…
いつも曖昧な答えばかりだった。
けど、今なら言える。
「はい。
私も、ずっと貴方のそばに居たいです」
そして、勇気を振り絞った直後ーーー
瞬く間に唇が塞がれた。