第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》
「お前…どこまで邪魔する気なの?」
「……!なんでそんなものっ…
仕舞ってください、伊万里さ…」
「うるさい!」
禍々しい気迫に圧され、ぐっと口を噤んでしまう。
「どうして…?どうして信長様はこんな女を選んだの?…
わたくしを袖にするほど器量の優れた女なのかと思いきや……平凡もいいところじゃない」
「……っ、」
「縁談も、宴の時も…わたくしがどれだけ想いを伝えてもずっと相手にされなかった。
馬鹿にして……許せない。許せない!!」
時として行き過ぎた愛情は少しずつ歪みが生じ、やがて方向性を見失い憎しみへと変わったりもする。
私へ…そして信長様への憎悪を燃やす彼女はもはや我を忘れているようで、その表情や振る舞いは常軌を逸していた。
……怖い。
でも……
刃物を突きつけられる恐怖よりも勝る感情が、私を奮い立たせる。
「伊万里さん。私こそあなたを許さない」
「…は?どういう意味よ」
「そんなもの持って天主へ向かうなんて…
何をしでかそうとしてたんですか?
ーーー彼に危害を加えるつもりなら、私が許さない」
自尊心が低くて、後ろ向きで、弱くて。
暗い殻に閉じ籠もってばかりいた。
けれど……
そんな私を光の下に連れ出してくれたのは。
いつも自信に満ち溢れていて、
周囲にも慕われて。
笑顔がちょっと凶悪で、
破天荒だけれどそれでいて可愛らしい一面もある、黒い着流しが粋なあの人ーーー
「信長様のところへは行かせない」
“下を向くな”
あの人からいつも言われていた言葉が頭をよぎり……
伊万里さんの目をまっすぐ見つめ、そう語気を強めて言い放つ。
両手を広げて渡り廊下に立ちはだかると、
次の瞬間ーーー
ヒステリックな金切り声と共に、小刀の切っ先が私の懐へ飛び込んできた。