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【イケメン戦国】夢心地の宵

第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》




宴はとうにお開きになっていたようで、刻々と深まりつつある夜。
私はできるだけ急ぎ足で、微かな灯りを頼りに暗い通路を辿っていた。


“これ、部屋の前に置いてあったけど…”


家康がそう言って手渡してきたのは、
底の浅い小さな木箱。
中には、花柄の綺麗な櫛が入っていた。

いつだったか本か何かで見たことがある。
古い時代では、女性に櫛を贈るという行為は求婚の意味が込められていたのだとーーー


「信長様っ……!」


胸元の襟合わせに忍ばせたそれをぎゅっと握りしめ、贈り主の姿を思い描きながら突き進む。

早く会いたい、その一心でーーー

しかし途中、視線の向こうに蠢くものを見つけて思わず足を止めてしまった。

天主へ続く渡り廊下をふらふらと歩く人影……
背丈からして、信長様ではない。
こんな時間に何者だろうと恐る恐る目を凝らしてみる。

あれは……


「伊万里、さん…?」


打掛も羽織らず、襦袢だけの薄着。
掻きむしったように乱雑した髪の隙間からは俯きがちな横顔が垣間見え、
なにやらしきりに小声で呟いている。


「許さない…許さない…絶対に…」


どうしたのだろうと近付いてみると、そうやって何回も繰り返すくぐもった声が聞こえてきて……
異様な雰囲気に怯えつつも、もう一度名前を呼ぼうとした時。

うつろだった瞳がカッと大きく見開き、私を捉えた。


「お前…!」


血走った眼球、
噛み痕が痛々しい下唇……
先程とは別人のように人相が変わり果てた彼女は、こちらへ向けてすうっと腕を伸ばした。

青白い手の先では、
鋭利な小刀が闇夜に光るーーー。



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