第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》
「予定では七日ほど先だと伺ってたのに……」
「あまりにも急よねぇ、まったく…こっちはてんてこ舞いだわ」
厨にて調理の補助をしている最中、こそこそと小声が聞こえてくる。
どうやら今夜の“お客様”は織田側と事前に日程を決めていたにも関わらず、一週間も前倒しで突然訪問してきたらしい。
何者なのかと尋ねてみたが、先方について詳しいことは知らないようで。
献立が急遽変更され、品数も増え、いつもより豪華な料理ーーー
それ相応のお客様なんだろうな、と
さして深く考えずにいた。
「茅乃」
無事支度を終えた頃ーーー
女中達と膳を運んでいる途中、ふいに呼び止められて足を止める。
この声は……
振り返って見ると、やはり信長様だった。
ここ最近は食事の直前まで天主に籠もって忙しそうに仕事をしていたのに、こんなところをウロウロしてるなんて……どうしたんだろう?
……あ。
もしかして。
「ふふ、もしかして金平糖探しですか?
疲れている時は甘いもの食べたくなりますもんね」
「……そのような呑気な用件ではない。
貴様に話しておかなければならない事があるのだ。早急に」
「あ、こないだの…。
実はあれから気になってて、私の方から聞こうと思ってたんです。
その話って一体、……ーーー」
そう言いかけた、時。
「ーーー信長様!お久しぶりですね」
言葉を遮ったのは
鈴の音のように繊細で、愛らしい声色。
次の瞬間甘い香りが私の横をすり抜けて……
目の前で立ち止まった。
私と信長様の間に割り込むかの如く。
「今日は夜分に突然押し掛けてしまってごめんなさい。
予定まであと七日あったけれど、どうしても待ち切れなくて……」
艷やかな長い黒髪を揺らし、信長様の腕にしなだれかかる。
……誰?
こちらからは後ろ姿しか見えない。
見知らぬ女の人の後ろ姿しか……
「……伊万里……」