第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》
「おお、あの御方は…」
「道を開けろ。お通りになられるぞ」
信長様だと気付いた途端、周囲を行き交う人々がざわめきだし……
通り過ぎてもなお振り返る者、作業の手を止める商人。
その眼差しは権力者への恐れではなく、敬意や羨望の表れだった。
凄い人なんだなぁ、信長様ってーーー
と、改めて実感すると同時に
私への注目も集まっている事に気付く。
特に…女の人から。
纏わりつく視線、密やかな耳打ち……
「……っ、」
どう見られてるんだろう。
何を言われてるんだろう。
“なんであんな子が隣にいるの?”
なんとなくそんな声が聞こえてきそうな気がして、周りの目から逃れるように顔を伏せた。
「どうした?」
「あっ、いえ…なんでもありませんよ」
被害妄想も甚だしいかもしれない。でも…
気にすれば気にするほど自信がなくなっていって、信長様から一歩二歩離れてさり気なく距離を置いた。
贔屓にしてる店をいくつか紹介してもらい二人で見て回っている最中も、やはり周りが気になって会話に集中できない。
「ここは南蛮由来の代物が豊富だ。ゆるりと見物するがよい」
「はい……」
立ち寄った小間物屋にて、外国製の骨董品を興味深く手に取る信長様をちらりと覗ってみる。
すっと通った鼻筋、整った輪郭ーーー
なんて綺麗な横顔なの。
私なんかが隣にいていいのだろうかと恐縮してしまうくらいに。
「先程から貴様は一体どうしたというのだ。退屈か?」
「そ、そんな事ないです!町の雰囲気に見入ってただけですよ。珍しいものがいっぱいで面白いなぁって……」
「………。
場所を移す。出るぞ」
さすがは幾多の敵と交渉し、対峙してきた武将。鋭い洞察力を舐めちゃあいけない。
作り笑いも小手先の嘘も全く通用しなかったようで。
強引に手を引かれるがまま、店の外へーーー