第1章 天下人の女 【織田信長】 《R18》
「?唐突にどうしたというのだ貴様は」
「こっ…これは単なる思い出し笑いです。どうか気にしないで下さ……
ぷっ…くく…あははっ」
どっぷりとツボに入ってしまったが故になかなか笑いが止まらず、言い訳すらままならない有り様。
きっと信長様は怪訝に眉を顰めているに違いない…そう思っていたのだけれど。
程なくしてようやく波が引いた後、ちらりと様子を伺ってみればーーー
いつもの鋭い眼差しはそこに無く。
「ふ…まさかここまで恐ろしく笑い上戸だとは知らなんだ」
私の悶える姿があまりにも滑稽だったのか、つられて信長様まで笑っている。
それはいつもと異なりとても穏やかで、なんだか楽しそうだ。
「逃亡に付き合わせた礼として分けてやろう。つまめ」
「いいえ、それは信長様にとって貴重なものでしょうから…私には勿体ないですよ。だから…」
「四の五の言わず食え」
ずい、と差し出された金平糖。
恐れ多いと遠慮したのだが、結局押しに負けて一粒つまんでみる事に。
隣に座している信長様との距離感に緊張しつつ、ほんのりと素朴な甘さを堪能する。
暖かな日差しと澄んだ空気、
風に揺れる草花ーーー
こんなふうにゆっくりと外で過ごすのはいつ振りだろうか。
「どうだ、気分は」
「……正直、最初は戸惑ってたんですが今はすごく快適です」
「なら良い」
もしかして、だけど。
こうして強引に連れ出したのはわざと……?
憂鬱気味だった私を元気づける為?
都合のいい解釈をして自惚れてはならぬ、と
一瞬よぎった推測を懸命に掻き消そうとする。