第1章 チョコレートに繋がれた
それから更に追い打ちをかけようとした彼女に、やっと正気に戻ったあたしは慌てて止めに入った。
「ま、まってまって、ホントに何にもされてないの!」
どうしたらいいかわかんなくて、とりあえず彼女の手を取る……のは恥ずかしすぎてできなかったから、服の裾を引っ張る。なんかあたしすごく情けない。ヘタレ感満載。
でもそんなこと言ってる場合じゃなくって。
「あの、なんかあたし、いきなりいろいろ考えちゃって、そしたら泣いちゃってたみたいで」
「……ホントに、大丈夫なの?」
「大丈夫っ! ご、ごめんね? 上鳴も」
まずはその場を落ち着けようと、二人に謝罪した。いや、あたし悪いことしたわけじゃないけど……まぁ発端ではあるもんね、たぶん。
それで安心してくれたのか、耳郎ちゃんは上鳴を攻撃するのをやめてくれた。よかった、同級生同士で殺し合いとかされたらどうしようかと思った。
「ごめん上鳴、勘違いしたみたい」
「いや、いいけどよ……俺は女の子泣かせたりしないっつの」
「悪かったってば」
ひどい目に遭った、と起き上がった上鳴へ、ばつが悪そうに再び謝る耳郎ちゃん。上鳴の言葉が真実かは置いておいても、問答無用でやっちゃったのは反省してるみたい。
そんな彼女の様子を見た上鳴が、何を思ったか、にやー、となんだか嫌な笑みを浮かべた。こそ、と、耳郎ちゃんへ、なにやら耳打ちをしている。
「!」
彼女は徐々に真っ赤になって、
「そ、そんなんじゃないっつの!」
と、叫んでまたどっくん。さすがにそれは庇えないよ、何言ったの上鳴……。
今度こそ完全に沈黙した上鳴を放置した耳郎ちゃんは、整理途中だったあたしの文房具を手早く片付け一纏めにして、机の上から取り上げた。
「え? あ、ありがとう……?」
「あ、いや……」
てっきり渡してくれるものかと思い両手を伸ばすけれど、ノートやペンケースが帰ってくる気配がない。
口ごもる耳郎ちゃん、不思議がるあたし。
そのまましばし膠着状態がつづく。
彼女はほっぺを赤くしたまま視線をうろうろいったり来たりさせて、最終的にちょっとばかり上目遣いでこちらを向いた。
え、なにその顔可愛すぎるんですけど……???
「あの……さ。チョコのお礼したいし、ウチの部屋、来る?」