第9章 王の射手
「もう行っちゃうんですか?」
「ごめんな。俺も仕事があるし、大事な商売道具を放置して来たから」
キノシタさんは颯爽と馬に乗って、来た道を戻って行ってしまった。
「もっと話したかったなあ……」
俺はただ広い草原を眺めて呟くと、馬車が動き出した。
「カゲヤマは周囲の警戒に戻れ」
「ウス」
イワイズミさんの指示で、カゲヤマは馬車の上に上った。
馬車は出発した時よりも少し速度を早めて走行する。
ワイバーン以外の魔物の襲撃に遭う回数を減らす為だ。
順調に行けば、予定よりも早く伊達街に着けるが、一筋縄で行かないのが旅だ。
クロオの置いて行ったケットシーの残存兵に度々襲撃を受けて、結局、予定とそんなに変わらずに到着した。
伊達街は高いコンクリートの城壁で囲まれていた。
本当に崖の上に立っている。
伊達街近辺は巨大な岩石が乱立して、時々クレーターらしき窪みを見た。
馬車が門に近付くと、詰所で身分証の提示を要求された。
カゲヤマとケンマも身分証は持っていた。
門が開き、馬車で城壁内に入ると、
むせ返る様な煙と悪臭が、俺たちを襲った。