第14章 航海
「海だー!」
俺たちは今、伊達街の港に来ていた。
伊達街の建つ切り立った崖の下に大小様々な船が出入りしている。
天気は快晴。小さな雲が空の高いところで緩やかに流れている。
潮風を全身で受けながら立っていると誰かに頭を叩かれた。
「いって! 何すんだよ!」
振り返ると拳を握るカゲヤマがいた。
「ぼけっと突っ立ってんじゃねえ、ボケ!」
「なんだと!」
俺がカゲヤマを睨み返すと、カゲヤマの頭をイワイズミさんがガッシリ掴んだ。
「そこまでだ。ほら、行くぞ」
「ウス」
「何でイワイズミさんにだけ素直なんだよ」
3人で丘を降りて波止場に向かうと、ケンマとアオネさんが船員と話していた。2人のそばには俺たちの旅荷物が満載した台車がある。
ケンマとアオネさんの顔があまり芳しくない。アオネさんの表情は元々変わりにくいとして、ケンマは珍しく嫌悪感丸出しだ。
「どうかしたのか」
イワイズミさんが近づくと、ケンマは少し表情を戻して説明する。
「料金があまりにも高いんだ。街で聞いた5倍もある」
「5倍!?もがっ」
俺が素っ頓狂な声を上げたので、アオネさんに口を塞がれた。
イワイズミさんは申し訳なさそうに眉を下げた。
「俺たちは旅の者なんです。手持ちもあまりなくて」
「知るカ。払えないナラ、乗るナ」
片言でぶっきらぼうな言葉で、船員は突っぱねる。
人間の大陸から魔族の大陸までの直航便はない。必ず妖精の大陸を通らねばならない。
そして妖精は警戒心が強いことで有名で、信用に足るもの以外寄せ付けないと聞く。
今日はこの船しか妖精の大陸に行かない。訛った言葉遣いは、人間じゃないからだろうか。
俺も一緒に交渉に出たいが、多分余計悪化させる。ここは大人しくしておくのがいい気がして、アオネさんに口を塞がれたまま成り行きを見守る。
カゲヤマもおとなしい。
ケンマは眉間にさらに皺を寄せて、目を固く閉じて、意を結したように口を開いた。
重い口から出てきたのは、
「*****」
人間の言葉ではなかった。